第91話 札幌コミュニティ定例会②
「まあ、ミハイル博士にとっては残念な結果だったんじゃないざますか?」
ザマス眼鏡の中年女がキラリと眼鏡を輝かせながらそう言った。
「……どういう意味ぞい?」
「今回の子も、ゾンビになってたほうが都合良かったんじゃないざますか?」
嫌味たっぷりといった感じに、ザマス眼鏡の中年女が
待望の検体が再び手に入るところだったのに残念だったざますねぇ……と言った
ところだろう。
「何を言うぞい!? 助かったことのほうが目出度いに決まっとるぞい!」
ミハイル博士は右こぶしを握り、眉間に皺を寄せて抗議する。
これに対する周囲の感想は(((お、意外だな)))というものであった。このマッドサイエンティストチックなミハイル博士にも人並みの倫理観があったということだろうか。
「不顕性感染者も十分に貴重な
(((そっちかい!)))
今日いちばん、全員の意見が一致した瞬間である。
「こうしちゃおれんぞい! とりあえずは血液と細胞の採取しなければならんぞい! 帰るぞい、ゴルビー!!」
ミハイル博士は愛猫のサイベリアンの雑種であるゴルバチョフを呼ぶと、踵を返して会議室を後にしてしまった。
ゴルバチョフは名残惜しそうに黒乃助の彼女であるスコティッシュをチラ見しつつもミハイルの後を追って帰って行った。次は自分に回ってくると期待していたのであろうか。ゴルバチョフにとっては残念だったかもしれないが、黒乃助にとっては幸いなことだった。一日に二度も寝取られ現場を見せられたら、彼の精神は崩壊していたかもしれないのだから。
……などと誰かが人間目線で黒之介を哀れんだりしたのだが、猫である黒之介の心中がどうなのであるかは知りようがないのだが。勝手に
「ははは、いつもの博士だねえ」
「はぁ、毎回毎回これでは、流石に困りますね」
司会役の横山が眼鏡の端を指でクイッと上げながら答える。
余談ではあるが、そんな彼。今日は鼻水は垂れていないようだ。その理由は、机の上にさり気なく置かれた点鼻薬で察することができるであろう。
(そう言えば、薬局から調達してきて欲しいモノのリストの中に、名指しであったナッ)と思ったのは警備部代表剛力であった。真面目な横山が公私混同とは恐れ入る。
「これから情報交換する議題のひとつですが、博士の見解も頂きたかったのですが」
「……各地の原発関連の問題のことだね」
フム、と顎に手を当てる山田。
幸いここ札幌コミュニティはその問題に直面してはいないが、現在日本……いや世界各地で直面している問題で、原子力発電所がメンテナンス不足により次々と機能不全に陥り始めているらしいという情報が入ってきているのだ。
原発で機能不全と言えば誰もが思い浮かべるのは、電源喪失等による制御不能状態……いわゆるメルトダウンという状態のことだ。
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