第73話 退治屋の話④
全国のゾンビの数は、確認されている範囲だけの話ではあるがそんなに多くはないと思われている。無事だった者同様、”あの日”以前の人口比率で5%程度がゾンビとなっているというのが定説だった。
しかも、彼らは無事だった者みたいに集合して自衛するとかの知恵もなくバラバラで勝手にやってるだけなので、何千何万の大群になるとかの脅威は考えられない。こちらは多人数で各個撃破すれば危な気なく駆除できるのだ。
たかだか中学生で素人集団、しかも子供の集まりであるキタチューバスターズ程度でも無難にこなせる仕事なのに、大人たちが積極的にやらないことに将吾は強い不満を持っていた。
実は大人たちが将吾の望むような行動に出ないのには理由があり、ゾンビとは言っても原因は不明だが極度に新陳代謝や知能、痛覚が落ちている状態の人間であるからして、今のところ必要以上の駆除……殺人は行わないという方針だったからなのであるが、将吾たちはそんなことは伝えられてないから知らなかった。
そこは大人たちのミスだとは思うが、まさか子供たちが先走ってゾンビ退治を始めるとは夢にも思わなかったのだ。
そう。
いくらゾンビは容姿が醜くて人を襲うような存在と言えど、相手は人間なのだ。それを殺せば殺人なのである。そのことを、まだ子供であるキタチューバスターズの面々はあまり深く考えられないでいた。
ゲームや映画でもゾンビは積極的に退治する対象だったし、初期の混乱期に親兄弟を直接的間接的問わず殺されている者も少なくない。
彼らの未熟な正義からすれば、ゾンビは憎むべき悪でしかなかったのだ。
経験から来る慣れと慢心。
そして、正義執行という大義。
子供たちはそれらのせいで盲目気味になり、そして過ちに足を踏み入れてしまった。
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「くそう! 美鈴から離れろ!」
「正!」
こんなはずではなかった、と将吾は思った。
いつも通り、簡単にボコボコにして終わるはずだった。
(最悪だ!)
目の前で正が、美鈴を押し倒し覆いかぶさったゾンビをタックルして引き剥がした。
美鈴はなんとか無事のようだが……、正の左腕からはダラダラと血が流れていた。一部が噛み千切られていたのだ。
そして勝やんは今、地面に転がり血の海に沈んでいる。彼もゾンビに噛まれ、しばらくして意識を失ったのだ。
(オレの……オレのせいだ)
将吾はパニックになりながらも、そのことだけは理解していた。
ターゲットのはぐれゾンビについては、いつも通り難なくボコボコにして倒していた。
勝利にわく彼らであったが、油断していたようだ。
まだタロが警戒を解いていないことに気付く者がいなかったのが致命的であった。
―― 誰が、ここにはぐれゾンビは一体しか居ないと決めつけた? ——
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