死合わせ④



「ご報告します」


隊長室で執務中のブラッドに、二班班長のアイルー・ミューロンが事務的に告げる。


「まずはロゼッタ嬢殺人未遂事件。四十年前、匿名で『妻を助けてくれ』との通報があり、警察と救急隊が駆け付けると、怪我を負った二十代後半の女性を発見。腹部に刺し傷がありましたが、応急処置は済まされていたとのこと。通報した男性らしき人物の姿はなかったようですが、彼女の夫と思われる男が一緒に住んでいた痕跡がありました」


「…四十年前?」

「……四十年前です。…こちらがその男性の身分証のコピーです」


 思っていたよりも長いような短いような生々しい数字に驚くブラッドに頷いて、アイルーはデスクに資料を置いた。


「あいつ何歳だよ…」


 資料を手に取ってみる。今の姿と全く変わらない姿がそこにある。


「…なるほど」


 雰囲気どころか、髪の長さまで変わっていない。


「男の名前は知っての通り、ノイズ・ルーチェス。身分証によると当時二十八歳ですね。……全くお変わりないようで。……部屋には、ロゼッタ嬢以外の人間の血液も採取されており、おそらくノイズ氏のものと思われる。彼も怪我を負っている筈なのに、警察犬にも行方を追えなかったようですね。そのあと、ロゼッタ嬢は自殺未遂の線が濃厚になり、捜査は打ち切られています」


「ノイズを匿っていた警官については?」


「名前を教えて頂けなかったのでなんとも言えませんが、当時、異常者に遭遇して殉職した警官は結構な人数いるようですね。ただ、ロゼッタ嬢の自殺未遂を指摘した警官の名前がエミリア・イレイス。女性警官です。人望はあったようですね」


 人望。それがなければ名前は出てこなかっただろう。しかも、四十年も前の話で。


「……女性か」


「はい。ちなみに、ノイズ・ルーチェスの出生についても調べましたが、両親は既に他界。孤児院で普通に幼少期、学生期を過ごしています。彼を覚えている人間は居ませんでしたが、孤児院の記録には不自然な点は見当たりませんでした」


つまりノイズがロゼッタとあんなことになるまで自分が不老不死である事を知らなかった、というのは、嘘ではなかったということだ。まあ嘘などついた所で彼には何のメリットもなかっただろうが。


「まあ、疑ってはいなかったが…」


 気になるのは、彼がいつ不老不死になったか。

生まれつきという線もなくはない。だが、両親は既に亡くなっているという事は、遺伝ではありえない。


「不老不死の存在なんて、異常者が何故存在するのかを気にするのと、同じくらい無駄な事ですよ」


 アイルーが淡々と言い捨てた。


「だがな、アイルー」


ブラッドは癖になってしまいそうな苦笑を浮かべながら、それが正論と頷かない。


「俺は考えてやりたいんだ。あいつは、可哀想な化け物だから」


 アイルーが目を伏せる。そして少し考える素振りをした。


「……そうですか。そうであれば、隊長の耳に入れておきたいことがあります。その情報が役に立つかはわかりませんが、その孤児院について」


 良くも悪くも物事をはっきり言うタイプの部下の珍しい様子に、ブラッドはつい姿勢を正した。


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