忍武士 後章

優等生は正義の味方

18杯 優しい心

「壬生く~ん」

「東雲さん?」

 背後から掛けられた声に振り向くと、サクラが手を振りながら走って来るのが見えた。

 随分遠くから走ってきたと思ったが、サクラはあっという間に魁の元へと辿り着く。

「どうしたんですか?」

 サクラは息を整えて顔を上げる。少し前屈みになっているため、胸の谷間が強調される。

「壬生くんにプレゼントを持って来たの」

 と言って円筒形の紙包みを差し出した。

「これは……」

 魁は遠慮がちにそっと手を出す。

 最高級土佐和紙を使用したトイレットペーパー、羽胡蝶はねこちょう。大物芸能人が贈り物によく利用していると聞く。

 色鮮やかで香りが良く、羽のようにふんわりとした触り心地。

「い、いいんですか? こんな高価な物を頂いて」

「助けてくれたお礼だもん」

 サクラは頬を赤くして微笑む。

 魁の手がサクラの手に触れた。


 目を開けると木目が見えた。それが見慣れた自室の天井であると理解するのに数瞬を必要とする。

「夢か……」

 あのような夢を見たのは初めてだ。何かを示唆しているのか? しかし、あれは一体……。

 まだ高鳴っている心臓を感じながら、魁は困惑していた。



 もう夕方か。

 満弦達が去ってから、蟇目のバイクの後部座席で、魁はサクラに抱きかかえられるように乗っていた。

 脇腹の激痛の中、サクラの胸が暖かかったのを覚えている。

 その間、顔にはずっとサクラの流す涙が滴り落ちていた。

 そしてサクラの香りを感じながら、出血の為気を失ったのだ。

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