最期のあいあん

むーちょ摩天楼

1-1 タイ編


「私は生きたいなんて思ったことないよ。」



ーーーーーーー



西暦2×××年、とある世界線。

世の中は生物兵器を造らんとする科学者たちの目論見が大きく外れ、怪物まがいの化け物が溢れていた。

産み出された化け物たちは「キメラ」と呼ばれ、目的もわからず、植え付けられた破壊衝動のみを信じ、科学者たちを嘲笑うように無差別な殺戮を繰り返す。

彼らを産み出した科学者もまた皮肉なことにキメラによって減るいっぽうであり、世界中で散見されることとなったこの悲劇、失敗に次ぐ失敗、どう足掻いても絶望としか言いようがなかった。


ところが、日本である完璧な生物兵器が産み出される。




「あい、あん、朝ごはんだよ。」

信人のぶとはパンをかじりながら姉を呼ぶ。


「は?イチゴもうないんですけど」

「昨日あんが全部食べたんじゃん?ウケる」

「ウソあれ最後だったの?朝ごはんにイチゴ食べたら可愛くない?って思ったのにわろりーーんあれで全部だったんかい!」

「イチゴだけとかどんだけ花畑なん直後に腹減るべ」

「「うけみざわーー」」


よくわからない息をピッタリ合わせながら双子の姉[あい]と[あん]はスマホを片手に席についた。二人はいわゆる、今時のギャルである。

ついでに俺はこの朝とは思えないテンションの二人の2つ下の弟。いわゆるめちゃめちゃ普通の中学生男児である。ギャルでも陰キャでもない(と自分では思う)。


「は?イチゴないんですけど」

突然後ろから金髪でチャラめの男性が冷蔵庫を睨み絶望する。

「あんちが食べてもた~ごめん"まもち"ー」

「マジかーウケるープチトマト食べよ」

「「全然代替案になってないしー」」

「「「うけみ~!!撮っとこ」」」


双子と息を合わせ、「イチゴがないからプチトマト食べるまぢうけ(イチゴの絵文字5個)」とSNSを更新する"まもち"こと[兼次まもる]は、双子の父であり、俺の父でもあり…

「もう15いいねきた笑 ぶち上げ笑」

…ギャル男である。


「みんなおはよーーーーまって。イチゴないんですけど」

「母さん…え?なんなの?みんなそんなイチゴ好きだったっけ?」

「さらーーおはよっ今日もかわいっ」

俺の疑問を流すように父は母と抱擁する。[兼次さら]ギャルでこそないがテンション高めの一般人である。

「前髪短いの似合うんですけど~かわいすぎの無理茶漬け~門外不出~ずっと俺の腕の中にいて~」

「嬉しすぎるけど普通に仕事行くから!冷めた嫁爆弾投下!」

さらはちゅどーん、とまもるの腕から飛び出す。

…もとい、ちょっと変な人である。


「まもちゃん、私今日遅くなるかも」

さらは書類をテーブルでトントン、とまとめ物憂げにまもるの耳たぶを触る。年頃の子供がいるとは思えないイチャつきぶりだが、日課のように繰り広げられるとそれは当たり前でしかない。あいとあんはスマホ、信人はテレビを見ていて完全に二人の世界である。


「は~?さみしうぃー!信じられん!」

「まもち、今日私たちも多分遅い。つかてっぺん越える?」

「マジカルバナナ!信人しかいないの?!」


しかってなんだよ、しかって。

(突如タイで起きた爆発事件に周辺の住人はモンスターが現れたと口々にー)

テレビの声に、4人は画面に注目する。

「そそ、これこれー。タイ政府からあいあん出動!って連絡来た。」

あんはテレビに映るタイの政府要人を指差し、この人からメールきた~とへらへら笑った。

「タイって!日帰りで行けるもんじゃないからね?てっぺんどころじゃないからね?」

信人は思わず戸惑いながらツッコむ。我が姉ながら、能天気が服を着て歩いているようなもんだ。

「行けるべ。サクッと終わらせるよ、何もかも」

あいはテレビを見つめながら、子供に言い聞かせるように静かに呟いた。

ああ、忘れてた。この人たち。


「「でもトムヤムクン食べたみーー」」



最強の生物兵器なんだった。


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