第10話 鍵

「おい明久。鍵は出さなくていいのか?」

「もしかして鍵をどこかに忘れてしまったのかのう?」

「……ありうる」

「はは、何言っているのさ。毎日使っている家の鍵を忘れるなんてバカじゃないよ」

「「「……」」」

「なにその沈黙。まあいいや、なんと驚け! ちょっと前にマンションの改修があって、鍵がこれに変わったんだよ」

「どうしたのじゃ人差し指を突き出して?」

「……まさか」

「指紋認証の扉だと!? くそ、翔子対策で導入しようとしたがコストが高すぎて諦めた代物な−」

「ぬ、ぬう!? なんと悲哀に満ちた声なのじゃ」

「秀吉、バカは置いといて、さあ開けるよ」

「う、うむぅ」

「……」

「うむ」

「……」

「明久?」

「……」

「どうしたのじゃ?」

「秀吉、どうやら機械が僕の人差し指を忘れたみたいだよ」

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