無能生徒会長の五月は遮断機の中から始まるか

きと さざんか

第1話 無能生徒会長

 生徒会長がリア充なんてのは嘘っぱちだ。


 金子坂高校三年、現在生徒会長を務めている星野ほしのてんはそう思っている。

 今は全校集会の真っ最中、体育館に集められた生徒たちが、生徒会“副”会長の斉藤さいとう幹也みきやの報告に聞き入っている。


「今回、水泳部が地区大会で優勝しました。おめでとうございます!」


 という華々しい報告も、生徒会副会長の斉藤の口から発表される。

 本来ならば、体育館の壇上に上がり、話をするのは天の仕事だ。だが、仮に天が発表しても、水泳部は喜ばず、全校生徒はあくびをしながら右から左へと聞き流すだろう。


 斉藤は、容姿も勉学もカリスマも、天のはるか及ばないところにあった。唯一、天が勝てそうなのは、身長くらいなもの。それでも斉藤は百八十センチちかくあるので、充分に見栄えがするだろう。

 天は、その大きいだけの体格から“ウドの大木”と揶揄されている。それも、あからさまに。


 そもそも、生徒会に入ったのは、天の意志ではなかった。自薦ではない。他薦だ。しかも、仕組まれた他薦だ。

 天は、自分には何も取りえがないと思っている。だというのに、クラスメイトは面白半分に天を推薦し、組織票で当選させた。

 最高の嫌がらせだと思っている。他の生徒会メンバーは、みんな自薦。進路のための、点数稼ぎのために、生徒会に立候補した。


 天は、生徒会など異世界の存在だと思っていた。仕事なんて知らなかった。生徒会室の場所さえ知らなかった。

 お飾り、というのも生ぬるい。仕事の大半は斉藤がやるし、書記も会計も斉藤を頼っている。この前、部活の活動報告書をまとめる会議には、ついに天が呼ばれることすらなかった。

 事実上、生徒会は斉藤のものだ。それを、本人も自覚している。だから、堂々と壇上で発表などできるのだ。


 天は、今一般の生徒に溶け込むように、列に並んでいる。生徒会専用スペースには、斉藤と、書記の三橋みつはし裕太ゆうたがいるのみ。

 天の周りからは、クスクスと笑い声が聞こえてくる。天は、悲しいことに有名だ。笑いものとして。無能な生徒会長、それが天の肩書きである。


 恥ずかしくて、縮こまりたくなる。大きいだけの体格が、今も昔も憎らしい。

 なんでこんなに惨めにならなければならないのだろうか。いつも、天は疑問に思っている。


 ――何もしていないのに。


 そう、天は目立つようなことな、何もしていない。それなのに、幼い頃から後ろ指をさされてきた。

 体格はよくても運動神経がない。他人より頭一つ大きくても、勉強だって中流だ。ただ大きいというだけで、妬まれることもある。

 だからこその、“ウドの大木”。それゆえの、“無能生徒会長”。


 斉藤の報告を聞きながら、天は穴にでも入って、自分を埋めたかった。

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