三文芝居~いや三文も稼げたらすごいと思う~
最終章
第1話 便器か姫か (=緑色✖鷹✖観賞用トイレ+邪道ファンタジー)
あまたの困難を乗り越えて、勇者はいざ魔王との最終決戦に臨んでいた。
「くそっ! やはり、強すぎる!」
共に旅をしてきた魔法使いも剣士も力を使い果たして倒れてしまった。それでも、魔王は健在で、不敵な笑みをこちらに向けている。
「ふははは、勇者よ。その程度の実力で吾輩に勝負を挑むとは笑止千万。自らの愚かさを悔いて死ぬがよい」
「黙れ! どんなに困難であろうとも俺は絶対に諦めたりしない。世界征服などさせないし、必ず姫も返してもらう!」
勇者は舌打ちをしつつ、剣を掲げて魔王に突っ込んだ。
魔王はかるく笑いつつ、その剣を
「この程度の攻撃が私に効くと思ったか?」
「はぁぁぁ!」
勇者は、剣にすべての力を注ぎ込んだ。しかし、力の差は圧倒的。それでも、勇者は諦めない。
もう少し、もう少しのはずなんだ、とそう心の中で呟きつつ、勇者は魔王に立ち向かった。
「無駄無駄!」
魔王が魔力を高めて、勇者に衝撃波を繰り出した。
まともに受ければ必死。
その攻撃を勇者は間一髪でかわした。
「ん!?」
そして、勇者は魔王を
「貴様、どこへ行く!?」
勇者は応えず、ただひたすら駆ける。
闘いを繰り広げていた玉座の間より、さらに奥、深奥の部屋へと。
密偵の情報が確かならば、必ずあるはずだ!
「まさか!?」
魔王の驚愕の声と同時に、勇者は封印のかかった部屋をみつけ、そして確信する。密偵からの情報通りの封印。これは魔法使いの事前に作らせておいた開錠魔法で解ける。
「やめろ! その部屋には!」
勇者が扉を開くと、そこには闇があった。広い空間であるのに、照明は中央の一部だけ、というより、そこに置かれたあるものを厳かに照らしていた。
便器だ。
真っ白の便器は、一点の汚れもなく、上から照らし出された光によって、ただ陰影だけを纏っている。
一見すると意味不明。
だが、これこそ、勇者が探し求めていたものであった。
勇者が便器に近寄り、そして手をかけようとしたそのとき、
「それに触るな!」
魔王が叫び声をあげた。
「くくく、焦り過ぎだよ、魔王」
勇者は、くるりと振り返る。
「それでは、これがおまえにとって大事なものだとバレバレじゃないか」
「なっ! ……それは!?」
今更、魔王は取り繕おうとしているようだが、もはやすべてが遅い。
勇者は、腰元から瓶を一本取り出した。中には緑色のどろりとした液体が入っている。
勇者は、その瓶を便器の上へと掲げて、高らかに述べた。
「さぁ! この『
「やめろぉぉぉ!!」
魔王は、絶叫していた。
どうやら、密偵からの報告は本当のようだった。
「俺も信じられなかったよ。まさか、魔王が便器収集家の変態だったとはな!」
「趣味なんだから、いいだろ!」
「こんな、クソ垂れ流す器を飾っておくなんて意味がわからないぜ!」
「そんな言い方すんなよ! わかんないかな、この曲線美と
「どうせ、クソしたら汚れるだろうが」
「それは観賞用だから使わないの! 便器の
便器の匠って何だろう、という疑問を勇者は全力でスルーした。
「さぁ、どうする魔王?」
「くっそぉ! いや、洗えば。洗えば、ぎり、なんとか!」
「ふふふ、俺の話を聞いていなかったのか? これは『
「な! なんて、限定的な呪いなんだ!」
「この糞を手に入れるために、旅の8割は費やしたといっていい」
「もっと修行しろよ! だから、弱いんだよ! はっきり言うけど、本当に魔王に挑むレベルの強さじゃないからね!? 来た時、え? 何でそのレベルで来ちゃった? 一回帰る? って言いそうになったからね!」
「『
「もう絶対に選択肢ミスっているよね。うん、その2人がいれば、今、吾輩ともっといい勝負になったと思うよ。というか、やばかったね、正直。負けてたかも。あとさ、さっきから言っている、その『
「ふん、ほざくがいい。それもこれも、すべては貴様に勝つためだ!」
「あぁ、負けそうになっているから反論できない! 絶対、吾輩の方が正しいこと言っているのに!」
「で、どうするんだい、魔王? 便器か、姫か、おまえはどっちを選ぶんだ?」
「ぬぉぉぉぉ! 貴様、最悪だぁ!」
魔王は力いっぱい頭を抱え込んで、本気で悩ましい声を上げた後に、血走った目で勇者の方を睨みつけた。
「便器!」
「じゃ、姫、返すんだな?」
「返す!」
「世界を征服とか滅ぼそうとすんなよ。滅ぼそうとしたら、また糞つけにくるからな!」
「あぁ! もう! しない! ていうか、そういうの、本当によくないからな! 特に勇者がするのは最悪だと魔王は思うぞ!」
かくして、世界の危機は去った。
しばらくして、便器と交換するようにして、姫は解放された。
魔王は便器が返ってきたことで安堵したようで、便器に傷がないかを入念に調べていた。どうやら本当に便器が好きなようだ。
「姫、よくぞご無事で」
にこりと微笑み、勇者が、手を差し伸べると、姫は無表情で返答した。
「納得いかない」
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