第678話


「それで、さっきの問題は何だ?」

「あー、ちょっとまって」


問題のある薬草を集気瓶に入れて開かないように封印する。ついでに集気瓶に強化魔法をかけた。これで故意でも過失でも、集気瓶を落としても割れない。


「…………」


ダイバが小声で確認してきた言葉に頷く。ダイバから小さく息が吐き出される。


「エミリアちゃん? ダイバは何をいったんだ?」

「瓶を強化したのは盛り上がっている連中が落とさないためかって」

「落としませんって」

《 落とす、にケツバット10発 》

《 落とす、に減給14ヶ月 》

「ぜぇぇぇったいに!!!」

「「「落としません!!!」」」

《 落とす 》

《 落としたい? その首を 》


妖精たちが隊員の声を一刀両断にする。脅す妖精もいる。


「エミリア、これが毒の原因か?」


さっきダイバが聞いたのはそんなこと。そして……


「これを仕掛けた者がいる可能性があるのか?」


そう聞かれて私は頷いた。地の妖精ちぃちゃんがその者に視線を向けているからダイバも気付く。そして息を吐いたのだ、身の内なかまに裏切り者を飼っていたことに気付かなかった自身の愚かさに。


薬草に名前が書かれているわけではない。しかしながら、発見されたときに怪しげな反応を見せた隊員がおり、ひとりひとりについていた妖精たちがそれに気が付いた。


そうなれば妖精たちの判断と行動は素早い。私がダイバから離れると、ダイバの周りにいた妖精たちが耳に近付いて小声で話していたらしい。周りに聞こえないように笛を吹いて注意を向けたり規制をかけていたため、ダイバの耳に顔を近付けて話す妖精の様子も声にも気付かれずにすんでいた。

……それはまた、残酷な話でもあった。



「休憩のためテントに入るぞ」


ダイバのいう言葉は隊長命令。誰もが従う。慣れない薬草探しで座ったり中腰でいた隊員たちにとって、休憩にするというダイバの言葉は天の声でもあった。


「ダイバ、俺はちょっと寝るぞ」

「何もなくなって見通しもいいからな。今日はここで泊まる」

《 見張りはいらないよ。魔物がでたら教える 》

「ああ、頼んだ」


ダイバが妖精たちに周辺の警備を頼むと、小さくガッツポーズをとる隊員たち。妖精たちの協力が得られたということは、これからは完全なる休憩オフなのだ。


今後の予定が確定したことで、後ろからアゴールが抱きついてくる。アゴールの独占欲は変わらず強すぎるが、これまでくっついてきていた分、少しは満足したのだろう。多少は加減をしてくれるようになった。


「エミリアさんは私と一緒〜。ダイバ、いいでしょう?」

「……エミリア、いいか?」

「ごはんまでね」


私が了承するとさらに抱きついてきた。アゴールもシエラと同様で末っ子の立場だったため、歳下の姉妹が欲しかったのだ。ちなみにアゴールにとってシエラは『ダイバの妹であり夫の妹』でもある。義妹というくくりなら私もシエラと同様のような気がするが、


「性格がよく似てるよ、お前らは」


というダイバをはじめとした周囲の言葉から、アゴールは私を『自分の妹』という意識を持っている。


「オヤジたちはどうする?」


私たちの様子を見ていたアルマンさんがダイバに予定を確認されると、私に視線を向けて苦笑する。


「エミリアちゃん、地の妖精を借りられるかな?」

「何をするの?」

「摘んだ薬草の記録づくりだ。本当はエミリアちゃんに頼もうと思ったが……アゴールに、ホラ、睨まれるからな」


がるるるるる……と私を抱きしめたままうなるアゴールにみんなが笑い出す。避難民だった幼少期の奴隷商人身売買未遂事件から同族かぞく以外に心を開かなかったアゴールが、私に執着して以降はコロコロと表情を変えるようになり隊員たちは心から喜んでいたのだ。


地の妖精ちぃちゃんたちに任せてもいい?」

《 いいよ 》

《 ほかにも一緒に薬草の記録をつくりたいって人はいるー? 》

「あっ、俺もいいっスか?」

「俺も頼みますっ!」


知らない薬草を摘んだ隊員たちから次々と声があがる。勉強熱心なのは『知っていたら回避できた最悪の事態をける』ためだ。


「参加する奴は会議室を使え」

「妖精たちが規制した薬草は改めて講習するね」

「「「お願いしまっっす!」」」

「じゃあ、明日は午前に講習をして移動は午後からにするぞ」

「「「了解っっす!」」」

「では解散!」


ダイバの声に、真っ先に動いたのはアゴール。


「いきましょ、いきましょ。エミリアさん、一緒にいきましょ」

「では皆さーん、何かあったらごはんの時間に〜」

「お疲れっす!」


アゴールに毎度のごとく抱えて運ばれる私にみなさんいいお顔で敬礼する。アゴールが大人しければこの隊は平和なのだ。そして、アゴールの機嫌がよければ隊員たちの精神的負担が天と地の差ほど大きく違う。

その精神安定剤として私を犠牲イケニエに差し出しているのだった。

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