第662話


「……みんな、聞こえる?」


そんな声が届いたのは、バラクル2階の幼稚園に双子を連れてきたミリィさんの『通話』からだった。


「「「エリー!!!」」」

「エリーさん!」

《 エリーだ! 》

「あー、みんなの声がする……妖精たちの声も……聞こえ、るよぉ」


声が涙でにじむ。私たちも1年ぶりに聞いたエリーさんの声だ。


「エリー、元気か?」

「ダイバね? ええ、目が覚めたときは声が出せなかったの。首から下が潰れて即死だったのに、金糸が私の魂を繋ぎ止めてくれたから、助かったって、聞いたわ。ただ、身体は、元に、は戻ったけど。……内臓も含めて、これからリハビリよ。頑張って、冬の間に……動けるように、なる、わ」


舌が上手く動いていないのか、声帯がまだ動かしにくいのか。途中で言葉が途切れがちになっている。


《 エリー、無理するなー 》

「あら、心配してくれるの?」

《 エリー、無駄な努力するなー 》

「ちょっと……」

《 エリー、栄養になるー? 》

「ならないわよ!」

《 エリー? 誰だったっけ? 》

「ちょっと……まさかよね?」

《 そのうちみんなに忘れられるから安心して 》

「安心できなーい! ちょっと、エミリアちゃん。覚えているよね? さっき私の名前呼んだよね? エミリアちゃん? ねえ、聞いてる?」

《 エミリア、聞いてなーい 》

「まさか、みんなでエミリアちゃんの耳を塞いでいるんじゃないでしょうね!」

《 あっバレた 》


バレたと言いつつ、実際には塞いでいても丸聞こえだ。


《 エリー、また精神体でほっつき歩いてるんじゃないでしょうねえー 》

「アラクネの金糸を解いてないわよ!」

《 どっかにいない? 》

《 見つけたら身体がある場所まで吹き飛ばしてあげる! 》

「だからいないって!」

《 ダイバ、椅子の下にいない? 》

「いないぞー」

「ちょっと! 何を探してるの!」

《 何ってエリーに決まってるじゃない 》

《 エミリア、お菓子の皿の下で潰していない? 》


妖精たちに言われて皿を持ち上げて下にいないのを確認する。


「いなーい」

《 エミリア、間違って食べちゃってない? 》

《 エミリア、あーん 》

「あー」


妖精たちに唇や頬をさわられて口を大きく開くと、みんなに口の中を確認される。


《 いないねー 》

《 うん、エリーを食べてないねー 》

《 舌の下にも隠れてないねー 》

「そんなところにいるわけないでしょ!」

《 エリーなんかを食べたらお腹痛くなるから食べちゃダメよ 》

「はーい」

「ちょっとエミリアちゃん! 『はーい』じゃないのよ⁉︎」

「はいはーい」

「『はいはーい』じゃないって!」


みんなで揶揄からかうと、それにエリーさんは反応する。そのおかげで、エリーさんの会話が流暢になってきた。私の右側に座っているミリィさんはエリーさんの元気になっていく声を聞いてずっと泣いている。……泣き声がエリーさんに届かないよう静かに。

そんなミリィさんの隣にシューメリさんが座って背を優しくさすっている。ミリィさんの出産を手伝い、ミリィさんの生い立ちを知り、「ミリィも私たちの娘よ」となったのだ。


「エリー、上手く喋られるようになったな」


ダイバの言葉に、向こうから息を吐きだす音が聞こえる。


「ひとりで声を出す練習するより効果あるわ」

《 無駄な努力ー 》

「そのとおりだったわ」

《 エリーの考え休むに似たりー 》

「ちょっとそれは酷くない⁉︎」

《 エリーは考えても時間のムダー 》

《 エリー、頭は新しくなってないからおバカのままー 》

「ちょおおおっっっっっとおおおおお!!!」


変わらないエリーさんの反応にみんなが声を出して笑う。その中にミリィさんも加わっていた。

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