第640話
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小さな物音が驚くほど大きく響く。ここは古い鉱山跡で、今では誰も足を向ける人はいない。
フルリアス国西部の国境は渓谷を挟んだ隣にシメオン国の深く暗い森がある。森を馬車で三日三晩走らせないと通り抜けられないくらいに深い。木々が鬱蒼と生えているため、見上げても空が見えない。
そしてこの森には街道がない。
いや、昔はあったらしい。今は土に
シメオン国の国民は、旧国の旧都すべてを潰して別の地に王都や町と村を新たに作り出した。潰したのは野盗が根城にするのを避けるためだ。
新しいシメオン国といっても、実際には旧シメオン国の国民だ。不思議な国で「美しくないものは国民ではない」という法をつくり国民を追放していた。どんなにカッコいい青年や美姫でも、ケガをして顔に傷が残れば国外追放となっていたらしい。いまの国民は旧国時代に追放された人たちの末裔だ。
旧国時代の遺跡の中で一番異様なのは神殿だろう。人には通ることのできない膜、しかし人から外れた存在の俺には効かなかった。
何もかも失われて空っぽな神殿に数日
……見たことのない花々が、どこの神殿にも捧げられていた。
その
『赦してください、愚かな自分を。赦さないでください、自分のためにあなた方の人生を、幸せを壊した愚かな自分を』
滅びの原因のひとつに挙げられる名もなき女神。その女神を国民は信仰し、神から「棄教をすれば今までのことを
……うらやましい。
「ねえ、助けてあげましょうか?」
火山の火口まで魔物は追ってこない。ここはムルコルスタ大陸に近い火山島だ。何度も魔物に追われ逃げた先がこの火山島だった。
魔物よけの
膝まで海水に浸かって逃げてきた。ここだったら人も魔物も追ってはこない。
ギャアアアア!!!
ハッとして空を見上げる。なぜだ、なぜ噴火が止まったんだ。ここは火口の中、噴石で開いた穴に潜り込んで、空をクルクルと回る怪鳥から姿を隠す。あの怪鳥には何度も
なんなんだ! 私が一体何をしたというのだ。
私は悪くない、何も悪くない。
「ねえ、助けてあげましょうか?」
助けてくれ!!! こんな日々から助けてくれたら何でもしてやる!
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