第584話
私たちにもつらい報が届いていた。
鉄壁の
コルデさんたちはフレンドから安全確認のメールを送ろうとしても連絡は取れなかった。アルマンさんの母国ハイエル国も滅んでいた。しかし、何が起きたかわからないため、いまは海を渡って戻ることもできない。
大陸がひとつ沈んだのであれば、海流も大きく変わっているのだ。
航海中の船は近くの大陸に寄港した。しかし、タムスロン大陸に寄港しようとした客船は乱れた海流に飲み込まれたことも生存者によって証言された。
アルマンさんはパーティ用のテントで待っているとメールを送って、自分のテントを使ってパーティ用テントに入って待ち続けた。しかし、パーティ用のテントに人がきたのは5日後のことだった。それまで私たちは情報部がもたらすニュースだけが頼りだった。
届くのは国単位の被害であり、個人や限定の情報は届かない。
「仲間たちのフレンドが使えない。……ダイバ、エミリアちゃん。…………オボロが、死んだ」
「「…………!!!」」
声が出なかった。
「ウソでしょ」
そう言いたくても、この世界は死と隣り合わせ。生死を冗談で扱えるような甘い世界ではない。コルデさんが冗談やウソで死を口にするはずがない。だから、何も言えなかった。
私が作った瞬殺の指輪は対魔物用だ。それが機能しなかったわけではない。砕けていたのだ。あとで生存者たちが証言してくれたが、一度は守っていたらしい。ただ受けた攻撃は一度だけではなかったそうだ。
それを証言したのはテントで再会したユージンさんとネージュさんだった。
「指輪は一度目の衝撃に耐えられた。しかし、外の混乱で怪我をした奴らを助けに飛び出した連中が直後の攻撃で瞬殺された」
ユージンさんは崩れた宿で生き埋めになって右足を失っていた。持っていた万能薬は自分より重度の怪我を負った人に使ったそうだ。
私が作り置きした万能薬をユージンさんにのんでもらった。最初は断られたが、私たちがテントを通してそのままムルコルスタ大陸に向かうのは現状無理だった。神が関わっている 。それが戦場にどう関係してくるかわからなかった。
「プリクエン大陸に影響がないということは、戦争が休戦したわけではない。この混乱に便乗したパルクスが兵士を動かす可能性は高い」
アルマンさんの言葉に、こちらはまだ戦争が続いていることを知ったユージンさんに万能薬をのんで回復してもらうのは簡単だった。
「ユージンさんたちには五体満足に動けるように回復してもらって、人々の救助をお願いしたいんです」
「エミリアさん、エリーのことは……?」
「はい、ミリィさんにシシィさんから連絡がありました。万能薬など薬はミリィさん経由で送ってあります」
「……ありがとう」
エリーさんは見つかったときに全身が潰れて虫の息だったそうだ。出回っている万能薬は私の作ったものではないため、飲んでも何とか息が続く程度で回復が難しいらしい。シシィさんからミリィさんに連絡が来たのも、私から薬をもらって欲しかったからだ。ミリィさんに万能薬や回復薬に治療薬を渡して、それを送ってもらった。たしかにシシィさんの頼みということもあり、万能薬や回復薬は送った。しかし10本ずつだけだ。
「エイドニア王国、ムルコルスタ大陸。それ以外にも被害を受けた国はあります。そして、万能薬を求めている人たちは沢山います。……ごめんなさい、シシィさんだけに全部あげるわけにはいかないのです」
そう謝罪すると、冷静になったのかシシィさんからも謝罪された。
もちろん各国の治療院はひとりでも多く助けようと各地に散らばり、疲れて倒れるまで治療を施した。
そして私は庁舎の一室に自分の調合窯を持ち込んで調合窯をフル稼働させた。庁舎なのは、私が無理をしないようという理由からだ。ここで「大丈夫」と胸を張れないのは、まだエアと名乗っていたときに限界まで錬金し続けて記憶をなくすほど疲れきった過去があるからだ。妖精たちと一緒に暮らし始めても、限界まで続けては倒れて寝込んでいたこともある。精密な作業のない調合のため、シーズルやダイバが作業を中断できるようにするためだ。できた回復薬や万能薬はポンタくん経由で各国に配布される。
「無理しないでください。各国でも
ポンタくんの言うとおり、凄い勢いで回復薬が無料で出回り、遅れて治療薬が、そして万能薬が人々を救っている。完成までの時間が違うため、重度の人でも回復薬で生命を繋ぎ、治療薬で体内外の治療。ただ重度の傷は治療薬を数回に分けるか万能薬でしか回復できないため、回復薬で痛みを抑えつつ、万能薬で体力の回復に傷や痛みを完全に治療させる。
私の万能薬は、今すぐに使わないと救えない生命に使われている。
彼らの薬でギリギリ持ち堪えていたエリーさんは、シシィさんに届けた私の万能薬で回復したものの昏睡状態が続いている。極限まで失った体力と気力を回復させているのだろう。両手足に巻かれたアラクネの金糸が、エリーさんを死の淵にある身体に
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