第563話


ダイバとシーズル、そして彼らの部下が一個団体でやってきた。結界内で妖精たちの話を聞くのは二人だけで、隊員たちは1階のマッピングにきたらしい。


精霊ニンフたちは妖精たちに徹底的に叩きのめされて顔面が変形していた。両目蓋まぶたは腫れあがり、目が開かないようになっている。事情を聞いた二人が「「自業自得だ」」と声を揃え、管理部の隊員たちは両手を合わせて冥福を祈った……


「「「死んでねえ!!!」」」

「時間の問題だと思うよ」

「俺たち精霊ニンフは死なない……」

《 わけないでしょ! 》

《 そうよ! 私たちと同じ、死なないんじゃなくての! 》

「そんなバカな……」

「バカはお前らだ」


シーズルが呆れたように息を吐きだし、私たちは無言で頷いて同意する。


「君らと同じく罪を犯した精霊ニンフがいたんだよ」


シーズルが彼らの知らない話を始める。

精霊信仰を掲げる国に訪れ、盛大な歓迎をされた精霊ニンフ


「我をあがたてまつれ!」


そう宣った彼は巨大な水晶に封印された。水晶それは国が戦争で滅ぶまで祭壇に飾られた。彼が望んだとおり、崇め奉ってきたのだ。

水晶は戦勝国に運ばれる途中で一度精霊ニンフと共に木っ端微塵になった。魔法が直撃したのだ。


……当時の記録には人々の驚きと混乱が残されている。


巨大な水晶は信仰の象徴となっていた。古い文献に『手厚い歓迎に喜んだ精霊ニンフがお礼に自身を象徴にするよう申し出た。人々は精霊ニンフを水晶に封印し、信仰の象徴とした』とあった。しかしそれは伝説であり、精霊ニンフの彫像を水晶の中に埋めたものだと信じていた。それがまさか本物の精霊ニンフが封じられた水晶だったとは思わなかった。


「奪われるくらいなら……」


信仰の象徴を奪われるくらいなら自分たちの手で破壊する。信仰の象徴は心の中にある。

そして成功した水晶の破壊は、中の精霊ニンフも粉々にした。


「しかしなあ……君らの言うとおり、精霊ニンフは死なねえんだよな」


精霊ニンフの身体は再生され、程なくして息を吹き返した。そして粉々になった水晶も彼を再封印するために再生した。


「そいつがなあ……数年前にダンジョンで見つかったんだ。精霊ニンフを封印したままの水晶が」


見つかったのは、単結晶シングルポイントが固まって巨大化した水晶群晶クラスター。その中のひとつに精霊ニンフがいた。


ミリィさんからの提案で、ミリィさんの知り合いの精霊ニンフフィシスさんが呼ばれた。それはちょうどコルデさんがダイバたちと再会するために渡航するとき。犯罪ギルドの調査でダンジョン都市シティに向かうシシィさんたちと一緒に来た。


「フィシスひとりでは辿り着けない可能性があったわ」


ミリィさんはそう言って笑う。冒険者時代、乗り換えで間違えること多数。ただ、シシィさんやアンジーさんたちが一緒だったため最終的に間違った道に進まずにすんでいたそうだ。

そんなフィシスさんからお願いされて、精霊ニンフ入り水晶は譲渡された。


「封印はこのままにするわ。少しずつ封印は弱くなっているの。あと200年ほどで封印は完全に消えるわね」


封印が解かれたときに、これは傲慢による言動の罰だと伝えるそうだ。


「知り合いですか?」

「いいえ、同種族なだけよ」


精霊王の住む森に牢ではないが監視の厳しい区域があり、そこに置いておくそうだ。


「そこには闇に堕ちかけた花の妖精もいるの……種に戻って眠っているけど、植物に囲まれて穏やかに眠っているわ。彼女はあと15年は目覚めないし、目覚めても二度と外の世界には出られないわ。……それだけの罪を犯したのだから」

「妖精は人に影響されます……私の仲間たちのように。だから、私たちはお手本となり、間違った道に進まないように注意しないとダメなんです」


私の言葉を聞いて妖精たちが口を挟む。


《 それをエミリアがいうかなー? 》

《 それを風の妖精ふうちゃんがいうかなー? 》

《 そんなことをボクたちが言っても意味がないと思うけどなー 》

《 私たち『似たもの同士』だもんねー 》

《 『朱に交われば赤くなる』っていうよねー 》

《 この場合『類は友を呼ぶ』だよ 》

暗の妖精クラちゃん大正解だいせいか〜い! というわけで、間違えた子には罰ゲーム!」


狗尾草ネコジャラシを取り出して、近くにいた風の妖精ふうちゃんの背中を撫でる。


《 キャアアアアアアアア!!! 》

《 だから猫じゃらし禁止ー! 》


蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ回る妖精たち。ここはミリィさんのお店の2階にある応接室。私たちとミリィさん、フィシスさんとシシィさんとアンジーさんが同席して話をしていた。エリーさんは……そういえばいなかったな。


《 まったく! どこから持ってくるのよ! 》

「え? ほら、こうして種があってね〜」

没収ぼっしゅー! 》

「やーだよ〜。ミリィさ〜ん、みんなが私のオモチャを取り上げようとする〜!」


追いかける側が追われる側になり、慌ててミリィさんの腕の中へ飛び込む。ミリィさんは微笑みながら抱きしめて優しく私の頭を撫でる。


「エミリアちゃん、あんまりはダメよ」

「……はーい」

《 もう、ミリィはエミリアに甘いんだから…… 》


水の妖精みぃちゃんのため息にみんなが黙って頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る