第561話


生存者の回収を終えて、ダイバたちはダンジョンを出た。ダイバは部下に処置をさせている間、地の妖精ちぃちゃんからダンジョンの状態を聞いていた。


《 ダンジョン自体は大丈夫。魔物たちが死んだら50時間後に吸収されてる。それを栄養にダンジョンは維持されてきたようだよ。でも、細かい部分で補修は必要だと思う 》

「ダンジョン内は明るいな」

光の妖精アイちゃんのおかげだよ。壁を見て、魔導具がないでしょう? 》

「ああ、ここは明かりもないのか」

《 暗かったよ。だから光の妖精アイちゃんが明るくしてくれたんだ 》

「ダイバ。ここは夜行性の魔物が多いみたいだよ」

「そういえば、入る前にコウモリが出てきたな」

「そう、光の妖精アイちゃんが明るくしたことで、夜行性の魔物は下の階に逃げてったよ。残ったのは明るくても平気な魔物だけ。でもさー、奥へ逃げたって行き止まりなんだから、逃げ場がないのにどうするんだろうね〜」

《 無理だよ、エミリア。入り口は魔物が通れなくなっているんだから 》

「あ、そっか」


シーズルが結界石を2つ設置したため、魔物が通れなくなっている。そのため、魔物が外へ逃げ出すことはできない。ただ、そのことを魔物が知っているわけではない。


「このあとは大丈夫なのか?」

《 ダンジョンは魔法を吸収するみたい。これは確認したよ 》

「いま使っているこのあかりは?」

《 これね、壁をよーく見て。一歩手前までしか光は届いていないの。壁に触れた光は吸収されちゃったんだ 》


ダイバが壁に触れて確認をする。そして魔力を少しだけ壁に流す、と魔力が抵抗なく壁に吸収されていった。


「これはほかのダンジョンと同じだな」


確認を済ませて壁から離れたダイバは周囲を見回す。


「迷宮と洞窟。これはさらに崩れる可能性はあるのか?」

《 ないよ。迷宮内で魔物同士が暴れた結果、一部の壁が崩れただけだもん 》

「入ったときにわかったけど、魔物が混在しているんだ。階層にあわせた棲み分けができていない。だから、迷宮のように壁があったら追い抜くとかすれ違うなどできない。そうなればケンカになって薄い壁は簡単に崩れる」

「それが、この迷宮と洞窟が混ざった異質なダンジョンの誕生ということか」

《 この裏の迷宮、壁が分厚いというより地質の柔らかい部分が魔物たちに掘られたって感じだよ 》

「迷宮部分が広がる可能性はあるのか?」

《 それはダンジョンの気分によってかなー 》


そう、生きているダンジョンほど攻略が難しい。マッピングから時間がたてば新しい道や広場ができている可能性もあるのだ。このダンジョンみたいに、迷宮から洞窟ができていることも。


「魔導具は管理部に連絡して取り寄せる。とりあえずランタンは必須だな」

《 一緒に入ってあげるよ 》

「そうか、助かる。報酬は鮭の南蛮漬け《グークース》でいいか?」

《 交渉成立ー! 》


ダイバの差し出した右手に光の妖精アイちゃんが触れて光らせる。これが妖精との契約方法だ。

前は私を通して行われてきた妖精たちとの契約。庁舎や委託で働く妖精たちの雇用契約は妖精たちの数が増えたことと視認できる魔導具によって、私を通さないで都長が契約する方法になった。

ダイバのように信用できる相手との契約も個々で行われる。アゴールたちと契約して、赤ちゃんのお世話をしている妖精もいる。


「さあ、ダンジョン攻略へGO!」

「おや、お昼ご飯は抜きですか?」

「ランチタイムのため、テントへGO〜!」


私の方向転換にリリンが結界の魔導具を起動させて地面に置く。だから気が付かなかった。この休憩がピピンたちに仕組まれたことだと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る