第538話
ダイバはちゃんと協力してくれたリリンに感謝する
「ピピンだろ? いやしの水を用意してくれたのは。そしてリリンのおかげで、いやしの水を風に乗せて拡散できた。二人ともありがとう」
「おーほほ、私に感謝するならエミリアを敬い崇めなさい」
《 はっはー 》
《 エミリアさまー 》
《 ピピン様ー 》
《 リリン様ー 》
「なんか、妖精たちを中心に各地でエミリア教が広がっているな」
「平和だね〜」
「戦争中だが、侵略してこなければ争うことはない。こちらから出向くことはしないからな、いまは」
私たちがここで調査しているのも国境より近いからだ。そして、商人に扮してサヴァーナ国に入ってウワサを拡散しているユージンさんたちとの接触地点でもある。ほかの国から潜入している
鉄壁の
「楽しいのはエミリアたちだろう?」
「えー、私たちの参加はまだだよ。……運動会の前は準備運動も大事だよね〜」
そう、いま楽しんでいるのはアルマンさんとコルデさんだ。私たちが妖精たちの運動会で笑い合えるのは、戦争が終わってからになるだろう。
私が静電気でこんがりと焼いてリリンの舞の舞台となっていた男たちが、気がついたらいなくなっていた。
そんな報告がダイバに届いたのは、とっぷりと日が暮れて良い子はベッドの中で静かな眠りにつき、悪い子は酒場でクダを巻いて閉店で追い出されても酒を呑み明かしたまま気付いたら眠りにつくという二日酔い直行路線を突き進んでいった翌日。
そんな
そこに「おい、うちのバカを知らないか」と大声を出されて、両耳に目覚ましをくっつけて頭が鐘代わりに殴られるような地獄に落とされた。その鐘がゴングとなったのか争乱が始まったものの、頭上から大量の臭液が落ちてきて一瞬で鎮まった。
しかし、直後に始まったのは阿鼻叫喚の地獄絵図。
「臭い! 何だ、これは!」
「うわっ! こっち来るな!」
臭液を浴びた男たちが少し身体を動かしただけで漂う異臭。腕を動かせばその動きで発生する風によって、異臭が動いて臭いを拡散していく。
「新手の魔物か!」
事情を知らない冒険者たちがそう言って獲物をかまえる。ダイバと共に駆けつけたのはちょうどそのとき。
「ダイバぁ……くちゃい」
鼻を押さえてダイバの後ろに隠れる。
「お鼻がひん曲がる〜」
「鼻に栓をしていろ」
「性格がひん曲がる〜」
「それは困る。エミリア、戻るか?」
「あの液体、ちょ〜だい。いい?」
「じゃあ回収してくれ」
私たちのやりとりに、周囲で武器を構えていた男たちから緊張感が抜けていく。
「なんだ? アイツら人間か?」
「ん? あそこにいるのは……」
「おっと、
半数はわざと武器を構えておどしていたようでニヤニヤしている。よく見るとその人たちは模擬戦用の鉄剣をかまえていた。
臭液は不透明な毒々しい緑色のヘドロで、これは沼地に棲むスライムの死体が沈んだものだ。全身がねちゃついていて気持ち悪いだろう。
収納したのは液体だけ。つまりスライムのドロップアイテムである潤滑油だけで、ドロドロの異臭と異物は彼らの全身にお残し。それらは沼の底に沈澱しているもの。木々が沈んで腐食したものだから、潤滑油を収納しても一緒についてこなかった。
「うわっ、バケモノ!」
「うわあっ! バカモノ!」
「うわっ、珍種の魔物か!」
「うわあっ! でたなっ、珍種の妖怪『濡れ
私のその名付けに所々で吹き出したのが聞こえた。焦茶色の濡れた木の葉や蔦を頭から被ったその姿は確かに言い得て妙だった。
「エミリア、ここは任せて戻るぞ」
「そーれ、やっつけてやる〜」
「お前はやらなくていい」
「えーい、正義の
「奴らと遊ぶなら、さっきの取り上げるぞ」
「……ダイバ、帰ろ?」
後ろから軽く腕を掴まれて止められていた私は、今度はダイバの腕を掴んで仮宿へと帰った。そのあとは袋叩きの後に各々の仮宿に戻り、テント内でシャワーを浴びたらしい。何をしても臭いが落ちない彼らを魔物が寄るか逃げるか調べるという話が出た後に、「仲間が昨日から戻っていない!」という第二の騒ぎが起きたのだった。
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