第523話


魔素を無効化する研究は妖精たちに任せて、私はダイバと植物採集。


「何か違う点はあるか?」


ダイバに訊ねられても答えられない……

ここは森の中とはいえ、周囲にいるのは私や妖精たちに理解があるダンジョン都市シティ関連の人たちだけではない。稼ぎになるとの理由で、別の町の冒険者ギルドからきた冒険者もいる。そのため、妖精たちにはピピンたちがついている。


「おい、ピピン。ちょっと結界を張るぞ」


ダイバの言葉にピピンが黙って頷く。その目はピピンの左後ろに向いていて、誰かが聞き耳をたてているのだと暗に教えていた。ピピンがこちらに目を戻すとダイバが応えるように頷いた。


魔導具の結界を張ったのは何かあればこの結界の外に妖精たちの結界が張れることと、魔導具の結界は張ったまま歩けるからだ。結界石はその場において使用するため強度はあるものの移動はできない。しかし、魔導具の方は強度は落ちるものの移動ができる。そしておおっぴらにはなっていないが、床の罠にかかりやすい。使われる魔石がひとつのため、最低でも三個必要になる結界石でつくる結界と比べること自体が間違いだろう。


「それで、何か気になることでも見つかったか?」

「魔素って多いと魔物に影響が出るんだよね?」

「ああ、そうだ。それが違うのか?」

「……うん。魔物が吐き出す瘴気は私たちに影響があって植物が浄化できる。魔素は私たちに影響はないけど魔物に与える影響は大きい。そうだよね」

「ああ、そうだな」

「なんでさ、大きい肉食の魔物の方が小さな草食の魔物より先に凶暴化するんだと思う?」

「よく食うからだろ」

「ほら、ダイバ。間違えた」


私が指摘すると不思議そうにみてきた。そう、身体の大きさによって変わるのは食事量。しかし、身体の大きさと比較すると量は同じなのだ。もちろん呼吸で取り込む魔素も、身体の大きさと比較すると変わらない。


「それにダイバ、魔物が凶暴化するのはだよ。食事量は関係ないし、魔物の大きさも関係ない」


そう、魔物に影響があるのは魔素。私たちに影響があるのは瘴気。


「私たちも魔素が影響するんだったら、この世界は全員が凶暴化してるよ。まあ、魔素溜まりでは妖精たちでも影響があったけど」

「おい、ピピンたちは……!」

「よくみて。ピピンとリリンに白虎は、アラクネが『いやしの糸』でつくった装飾品を身につけてる」


ピピンとリリンには種類は違うけどリボンタイ。白虎は長い髪を一つにまとめた髪をレース編みのリボンで飾っている。同じく、いやしの糸を使った生地で妖精たちの洋服も作られている。実はダイバも身につけている。


「どこに……あ、これか」


自分の隊服の上着を脱いで確認していたダイバがすぐに気づいた。そう、日本では当たり前についていたタグである。左腰の内側に縫い付けられている。そして胸ポケットとズボンの左右の前ポケットに以前からつけられていた隊章の刺繍も、いやしの糸であしらわれて銀色に輝いている。


「首の後ろだと気になる人もいるからね。いまダンジョン都市シティの守備隊や警備隊にダンジョン管理部も。制服にはどこかに使われているよ」

「これ、ひとつで二百ジルだろ」

「ダイバは八百ジル」

「ん? ああ、ズボンの隊章ふたつと上着の内側と胸ポケットか」


これだけあったら何が起きても大丈夫だろう。

そう確信して、足下にあった植物の花を踏み潰した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る