第516話


「それで、ファウシスの今はどうだ?」

「噂を流した。『戦争が大きくなる前に王都へ避難したほうがいい』と。動ける連中は王都へ向かった。魔物相手に無敵の冒険者も戦争では勝手が違うからな」


操り水をのんだ人たちの治療も兼ねてのこと。第二セカンド都市、三万人を超す人たちを王都では受け入れられない。もちろん城門の魔道具によって全員が入れるはずがない。王都ですら住民は五万人前後。戦争が始まった時点で、国境に近い村から王都へ逃げてきた国民もいて更なる人数を抱えて膨れ上がっている。もちろん避難民を受け入れる場所はあるし、ダンジョン都市シティのように入れなかった人たちが住み着いてできた外周部も存在している。


ちなみにダンジョン都市シティの人口は、農場や地下水路で働く奴隷たちも含めて一万八千人弱。それは城門の魔道具が強化されたことで犯罪歴に傷害以上の罪を犯した犯罪者(前歴も含む)が入れないからだ。外周部も一応の管理はされている。けっして無法地帯ではない。そして外周部の人口はすでに九千人を超えている。治療院もあり、村のようにギルドは存在しないものの貧困層スラムよりは生活環境はいい。とはいえ行き倒れる者もいるが仕事は大小様々ある。健康であれば日銭を稼いで集合住宅に住めて酒ものめる。


「操り水の効果が切れたことで正気に戻りつつある住人たちがすでに王都へと向かいだした。王都に連絡して治療院から職員を派遣してもらい、いやしの水を与えることになっている。治療師の判断によって、城門の外に新設された治療院で保護も可能らしい」


操り水は継続して飲まないと徐々に効果は薄れる。ただし、いやしの水でリセットしないと少量の操り水が呼び水となり簡単に操られてしまう。


「問題は見かけではわからないということか」

「と思うでしょ? ピピンの話では顔、特に目や額などの上部が赤く光るんだって」


操られているせいだろう。目や耳が『不都合になる情報をチェックしている』ようだ。それはファウシスでダイバも気付いた情報だ。


「実際にファウシスで操られている人たちと接触したが、目や耳の周辺に赤く光る線がはしる。俺たちもそれで相手が操られているか確認していた」


よく日本でロボットがピピピッと電子回路を光が走るシーンがでてから起動していた。ちょうどそんな感じに似ている。そのときに目がぼんやりしているのか脳が遮断されたのか『すんっ』と無表情になる。ただしそれは短時間、数秒の間だけだ。

宿に帰ってからダイバに「この世界の人ってロボット? 人工知能AI?」って聞いたくらいだ。座ったダイバの身体をいじってを探したくらいだ。妖精たちも一緒になってアチコチ叩いて確認してみた。


「お鼻を押したら押した人をコピーしたり、尻尾を引っ張ったら動きを停止したり〜」

「俺たち竜人には尻尾はないぞ」

《 鼻を押せー 》

《 せーのー 》

「うわっ!」


妖精たちに一斉に鼻を押されたダイバはバランスを崩して後ろにひっくり返った。妖精たちはダイバに遊んでもらいつつ、共存に向けたルールを教わっている。そんな妖精たちも戦争を前にダンジョン都市シティに避難してきた。

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