第505話
翌朝、ファウシスでは大事件が起きていた。
「大変だ!!! 町長の屋敷を含めてあの周辺の建物が全部なくなった!!!」
しかし、騒いでいるのはごく一部。町は変わらずに動いている。これが操り水の危険性。
『おかしなことは何もない。今日も変わったことは起きていない』
操り水の影響下にある人たちはたとえ町長が騒ごうが、屋敷のあったところが更地になっていようが、大きな陥没ができていようが……
「何か問題でもあるんですか? まあ、私は何も困りませんが」
「危ないですね。でも陥没は道路から離れているため、私たちに影響はないですね。問題ありませんよ」
「あれ? 職場がない。じゃあ今日の仕事は休みですか? 明日は職場が戻っているといいですが」
「総合受付が必要ですね。あ、町長そこにいらっしゃったんですか。すみませんが机とイス、文房具等の購入を許可いただけますか? あ、金庫がないですね。では必要経費をいただけますか?」
「朝食は……ああ、兵舎がなくなったから食堂もなくなったんですね。じゃあ屋台で簡単に済ませてから持ち場に行くか」
彼らにとって変わらない日常が普通に始まっていた。
そんな中でいなくなった人物が判明した。本屋の店主をしていたリマイン、そして彼の仲間たちだった。慌てたのはサヴァーナ国、困ったのはサフィール国。サヴァーナ国側の中心人物がリマインや仲間たちと共に消えた。そしてサヴァーナ国に従うサフィール国。コルスターナ国を裏切っていた証明が見つかれば、独立を宣言したサフィール国はコルスターナ国に戦争を仕掛けられる可能性がある。その際にサヴァーナ国が自分たちを切り捨てるだろう。国土と戦力が大きく違うからだ。
操り水を解毒する方法がある。それをコルスターナ、パルクスの両国に使われて正気に戻されれば、戦争の矛先がサフィールに向く。その後ろに隠れて動いているサヴァーナ国までたどり着けるかわからない。しかし、操り水の影響下にあるのはサフィールも同じ。
「サヴァーナ国に操られていた」
その主張が通る可能性もある。その証拠はサフィール旧国に書類で残されているからだ。
住んでいる人・働いている人・使用人は着の身着のまま路上で転がっていた。しかし、不正の証拠・不正の証人、そして閉じ込めていた前町長一家を始めとした人たちが建物ごといなくなったのだ。消えた建物の中にリマインの本屋もあった。リマインたちは別に家がある。元々ここの本屋は別の家族の所有物だった。それをリマインが漢字を含めた契約書を作り、本一冊で店舗丸ごとと交換させたのだ。
「リマインたちは!!!」
「あ奴らは本屋を売却したらしい。前日に契約を交わした若者が契約不履行で訴えてきた」
ダイバはまた違う姿で
レンドラは預かり知らぬこと、そう突き放しても良かっただろう。しかしレンドラは冷静ではなかった。さらに契約不履行による支払いを渋ったなどという不名誉な理由で町長の肩書を奪われるのは何としても避けたかった。こうしてレンドラは私財から白大金貨三枚を支払い、ダイバから受け取った契約書を引き裂いた。
「契約書、破かなければ良かったのに」
「渡したら真っ二つにして、そこからさらにビリビリにしていたぞ」
あとから契約に問題が見つかっても、自らの手で破棄した以上は文句も言えない。たとえリマインが見つかったとしても、支払った違約金を取り返せない。破った時点でそれはただの紙となり、契約者の名前も契約の内容も消えてしまうからだ。
「あれってちゃんとダイバの名前が書いてあったのにね」
「そこまで確認してなかっただろうなあ」
認識阻害のアクセサリーで濃紺色の髪と薄茶色の目に戻っているダイバ。レンドラには
レンドラが会った『薄茶色の髪と濃紺色の目の若者』は永遠に見つかることはない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。