第472話


サーラメーヤの二頭か、ガルムか、ケルベロスか。それに関しては火龍や騰蛇に確認することにした。手紙に描かれていたイラストはサーラメーヤだけど、それは目撃したからか、何か本でも見たからか。とにかく、死隊の消滅は火龍に確認するべきだと思う。

騰蛇は今、地下に閉じ込めていた連中を廃国に移している。あそこは外から見えないし、入ることも逃げ出すこともできない。


「ねえ、ダイバ」


手紙を様々読み解くと、もう一種の竜人と両性具有たちが何をはじめているのかわかるようになってきた。国土を広げていく中で、『竜人の王国』を作り出そうとしているのだ。


「どうした?」

「悪い子の竜人たちは何故、自分たちの国をつくろうとしているんだろう?」

「あそこは隣の国に俺たちが住んでいたからだろ?」

「何で隣の国?」

「エルスカントの尾根があるからだろ?」

「じゃあ、エルスカントの尾根はなに?」


私の疑問にダイバはひとつずつ丁寧に付き合ってくれる。一緒に考えてくれるのだ。


「俺たちは『女神の身体が隠されている』と思っている」

「それは私たちが女神と接点があったからだよね」

「ああ、六つの大陸に女神の身体が隠されている。ムルコルスタ大陸の神の罰で滅びた北の国。ペリジアーノ大陸のウランベシカ大国にあるエルスカントの尾根。ここプリクエン大陸のコルスターナ国の湿地帯。ほかの大陸にもあるようだが、これは全大陸を巡ったミリィに聞いた方がいいだろう」

「じゃあ……それを彼らが知っている?」

「……とは思えねえ」


では、彼らの目的はなんだろう?



鉄壁の防衛ディフェンスは半分が都市まちに残り、残りの半分がエリーさんを連れてダンジョンに入っている。魂を身体から剥離させていたエリーさんが、魔力も戦闘もあやふやだかららしい。


「ねえ、そういえばキッカさんやユージンさんたちは?」


一緒に国境までは行っている。廃国の調査の護衛として。


「ああ、王都に行ってる。ほら、以前にエリーが呪いのアクセサリーを摑まされただろ? その痕跡が残ってないかに調べているんだ」

「王都は更地になっただろ?」

「それでも痕跡は残っているもんだ」


それに完全に更地になったのは王城で、王都は貴族街が廃墟。商人の店などは結構残している。それは妖精たちの配慮だ。


《 貴族が下っ端の家に我慢して住めるはずがない 》

《 貴族のプライドが許さない 》

《 薄っぺらで向こうが透けて見える 》

《 濡れた指をつけたら穴があく 》

《 私たちがフッて小さく息を吹いただけで揺れる 》

《 花びらさえ揺れない、小さな風のため息そよかぜでさえ、かまいたちのようにズタズタになる 》

《 そーんな鼻紙ティッシュにもならないプライドなんかにしがみついて。みっともない 》

《 溺れる者は藁をも掴む。驕れる貴族は自尊心プライドをカネに変える。本当の貴族は沈む大船の中でも最後まで貴族としての自尊心プライドを胸に逝ったというのに 》


タイタニックの悲劇を映画でみて泣いた妖精たちは、この世界の貴族の誇りを『役にも立たない貴族のホコリ』とよぶ。そして叩き潰すことに手加減容赦はしない。その結果が王城の砂塵化だ。


「……今回のエリーさんの一件、キッカさんやユージンさん、ネージュさんがいたら別人だってすぐに気付いたよね」


そうコルデさんたちに確認したら声を揃えて言われた。


「アイツらなら放っておいたと思うぞ」

相手の魂胆もくてきがわからないため、泳がせていた可能性が高いらしい。

「自業自得ですかねえ」

「普段が普段だから」

「まあ、人徳のなせるワザ、ですかね。……逆の意味で」

「それこそ、下手に手を出して『自分で何とかできた』と恨まれたくないですからねえ」


なんとも温かい目で見守ってくれる、ステキな仲間たちのようです。

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