第469話



「ただ、何もできない。国境線を強化するくらいしか」

「…………ミスリアと母親はなんて言ってる? 故郷だろ?」

「なにも。ジュールのいかりを身に纏った正当な報復で、先代国王亡き後の空席を継いだのはミスリアにとっては叔父。しかし接触はなかったらしいから悲しいとかの感情はないそうだ」

「あの母親は? ミスリアを女王にしようと考えていないか?」

「いや。すでにピピンに飲み込まれて常識を引き出されたおかげで、ミスリア同様気にしてはいない」


それはそれでおかしい気がする。


「ねえ、ピピン」

「はい、オヤツのおかわりですか? 食べすぎると鼻血が出ますからダメですよ」

「いや、ちゃうし」


なんでオヤツの催促なんだ。


「といいつつ、俺の皿に手を伸ばしてるのはなんだ?」

「いらないから残してる?」

「違うだろ」


ダイバに皿を遠ざけられて、ピピンには手をペチンと軽く叩かれる。


「エミリアのレシピで作ったオレンジピールです。苦味を残した方にはチョコをコーティングしました。苦味がある方がお酒にあいますが……今は昼なので」


そういいながらチョコをコーティングした一本を私の前の差し出すピピン。そのままパクッと食べると、少しの苦味がミルクチョコに溶けていく。


「それでミスリアとその母ですが、コルスターナに対する執着は今後の生活に邪魔なものと判断して消しました」

「……あっ」

「それを確認したかったんですよね?」


ピピンに聞かれてコクコクと頷く。私の右手にはすでに輪切りのオレンジピールチョコがけバージョンが。左手にはノーマルな輪切りのオレンジピールがリリンによってセット済みだ。食べ比べて味を確認をするように、ということだろう。


「ピピンとリリンが一番エミリアを甘やかしてるよな」

「「当然です」」


ダイバの呆れた呟きにピピンとリリンの二人が声を揃えて答えた。


「それで、ほかに問題は起きないか?」

「残ってる三人の遺児のことですか? 彼らにはコルスターナへの思いはありません。故郷とも思っていないようです」


それはそれで寂しいと思わないのだろうか。そう思った私に隣に座るダイバがポンポンと頭を叩いてきた。


「あいつらにとって定住してからが故郷になる。コルスターナは故郷というより生まれた国で出発点なだけだ」

都市ここと王都のどちらを故郷と思うのかな?」

都市ここだよ」


リリンがそう言い切り、それにピピンも同意する。


「なんでそう思うんです?」

「私たちがそうでしたから」

「エミリアと会って、エミリアに受け入れてもらえて。そして『自分の場所』を手に入れたの。きっとあの子たちもそう」

「冒険者学校に通ってここで働く気になった。あの子たちにとってここが故郷ふるさとになっているようです」


だから今は、ダンジョン管理部で見習いとして主にアゴールの事務補佐をしている。

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