第457話


ヘインジルが「決起は失敗した。被害はなし」といっても、それが情報部に流れることがなかった。それはヘインジルが敵の手に落ちた、という訳でも、情報部が乗っ取られたという訳でもない。


「妖精たちがとっ捕まえた、ボンジョン、レイオン、グラスの三人は乗っ取られていた可能性が高いんじゃない?」

「ああ、女神がいっていた『夢のわたり』を、アウミの中の女神も知っているだろう。実際、エミリアの夢に出てきたくらいだ」

「それってあれだろ? 身体の乗っ取りに使うやつ」

「え? 違うっしょ?」

「他人の夢に入ることだろう?」

「その夢の持ち主から借りたのが魅了の女神だ」

「あっ、そっか!」


オボロさんが「オボロお兄ちゃんって呼んでー」、が! 声をあげたのは、『夢のわたり』が寝ている人の身体を借りることと思っていたかららしい。


「まず、そんな誤解をする兄は、賢いエミリアちゃんにはいらないな」

「シクシクシク……」

「ちゃんと説明されても理解できないお兄ちゃんオボロも、勝手な行動をする単細胞なお姉ちゃんエリーもいらないな」

「「シクシクシクシク……」」

「自分の知識の足りなさを嘆くならともかく、何も努力をしない人はいらないかな」

「俺は冒険者学校を卒業したぞ!」


ドーン!!! と胸を張るオボロさん。昨日卒業したばかりのため、とても嬉しそうだ。


「エリーは冒険者学校の再入学が決定したな」

「それも、簡単に敵の手にかかったし」

《 ぐーすか寝てた! 》

「それも、本体から抜け出して、エリーの土人形代わりの姿に入り込んでいたのが原因だからなあ」

「いやいや、あり得ないだろ」

「まあ、そのおかげでミリィ隊長に祝福は与えられた……?」

「それだって。本体の中から出ないで封印箱の中で暴れていたら、妖精はダメでも騰蛇様が気付いたんじゃないか?」

《 騰蛇が気付いたよ、だって 》

《 騰蛇はだいぶ前から気付いていたんだって。でも箱の中に魂がいないから、死体を埋めたんだろうって思ったって 》

「それって……大人しく封印されて寝ていたら、もっと早くに助けられていたってことだよね?」

「「「自業自得だな!!!」」」

「シクシクシクシクシクシクシクシク……」


エリーさんが何を見ていたのかは、アルマンさんとコルデさんがこと細かく聞き出してくれるそうだ。


「ちょうど、全員三日間は各々の避難先で待機なんだ」

「ほかの人たちは?」

「ああ、農園組は結界を強化している」

「あの子たちのご飯は?」

「ちゃんと送るから大丈夫だ」

「騰蛇、あの子たちは元気にしてる?」


そう聞いたら騰蛇は上を向いて確認してから頷いた。農園担当の妖精たちの中で、自由に地下と行き来できる地の妖精たちが交代で農園を守ってくれているらしい。


《 だって、私たちの場所だもん 》

《 エミリアがくれた居場所だもん 》

《 自分たちの場所は自分で守る 》


私の農園や果樹園だけでなく、隣のバラクルの農園を手伝う妖精たちも、交代で残っているらしい。それに騰蛇が南部の農園などの結界を強化しているそうだ。

そして、庁舎に残っている妖精たちが、少しでも気配のおかしい人たちを眠らせて、ヘインジルたちが行き倒れとして治療院に運んでいる。


《 ルレインが土塊つちくれになったことを伝えたから。それと、壊した指輪と一緒に指だった部分を送ったから情報部で調べてる 》

「それはこちらに情報が入ります」


ルレインのおかげで、いま起きていることがわかり、ヘインジルたちの方でも混乱が小さくすんだそうだ。


「手がかりもなく、何が起きているかもわからずに行動するのではありません。ルレインから得た情報、魔導具を使ったことや、身体になっていた土の調査から、どこで作られたかを調査しています。思ったより解決に進んでいますよ」


メッシュはそういって、ここで得た情報をヘインジルへの報告書にして送った。

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