第455話


「妖精たちが、死んだら同じ場所に生まれるっていうのは間違いよ」


女神があまり身体を借りていても疲れてしまうと思い、最後に聞きたいことを質問した。妖精たちのことだ。隣国での事件が気になっていることがあったのだ。


「隣国は?」

「あそこは王都周辺に結界が張られていたの。妖精たちを指定して、入ることができても、結界から出られないようにしたの。だけど穴はあって、運良く国の外で生まれ変わった妖精はいたわ」

「しかし、妖精たちの話の中で、殺されていなくなった、消滅した、という話を聞くよ」

「ええ。妖精たちは無限の生命をもってるわ。でも、心が疲弊して『消えたい』と強く願ったときに、妖精たちは一時的に眠るの。『妖精のたまご』と呼ばれるものよ。騰蛇、保護しているんじゃない?」


女神が騰蛇を見上げて確認する。すると妖精が驚きの声をあげた。


《 え⁉︎ 騰蛇が隣国で回収して持ってるって! 》

《 じゃあ、私の仲間もいる⁉︎ 》

「『妖精のたまご』は傷ついて癒されるために眠っているの」

《 それでもいい…… 会いたい。私を逃してくれたの。だから、お礼が言いたい 》


あの子は私たちと一緒に国境まで行って、最後まで仲間を探し続けていた地の妖精だ。必死に涙を我慢している妖精だったが、決壊してしまったのはアラクネがいくつかの卵をいれた、羽毛が敷かれたとうの籠を持って現れたからだ。


《 いた! みんないたぁ! 》

《 そっか。あの子、仲間がみんないなくてだったんだ 》


卵に抱きついて、ひとつずつ撫でたりキスをして再会を喜んでいる妖精。誰もがその様子を黙って見守っていた。




「エミリア。農場を広げられる?」

「地上に『妖精のゆりかご』をつくるの?」

「心が落ち着いた妖精たちだけね」


『妖精のゆりかご』とは、妖精たちの巣みたいなものだ。ゆっくり休められる自然の多い場所である。


「いいですよ。隣に妖精たちの住まいを提供しましょう。妖精も仲間ですからね」

「そこに魅了の女神も一緒に住めばいいわ」


シーズルの言葉にアラクネが提案する。その言葉に女神は驚いたが、「妖精のたまごと妖精たちの見守りよ」と言われて恥ずかしそうに微笑んだ。




目を覚ましたフィムは、アゴールに連れられて火龍と挨拶中。魅了の女神に身体を貸していた間は寝ているため、話を知らないらしい。そんなフィムに火龍がご褒美として頭に乗せたり遊ばせている。

地上にはいま問題が起きている。


「って言ってたけど何が?」

「大したことではないわよ」

「そうね。ちょーっと某湿地帯のある国と、偉そうにしていたお隣の国がケンカを始めてね」

「あの二国、正式に約束を反故にしたことで仲違いしたよね」

「それがケンカの理由よ」


人はそれを戦争という。


「でも、なんでケンカを始めたの? 下剋上?」

「勝てないことがわかってるダイバが、無謀にもコルデに向かっていくようなもんさ」

「そして瞬殺?」

「うーん、今回はいつもとちょっと違うから」

「女神が関わってるから?」


そう聞いたら「「「違う違う」」」と声を揃えられた。


「コルスターナの国王が死んだ」

「あれ? まだ生きてたの? あ、違うか。聖魔士くずれジュールは父親や兄姉たちを殺したんだっけ」

「そのジュールが、母国の王都と母国以外の国の王城を壊したことを覚えているか?」

「どこかって公開してなかったよね」


そう言ってメッシュに目を向ける。


「パルクスです」


パルクスは、アウミの中にいる女神を手に入れたから、大きくでたのだろう。


「ってことは、コルスターナの国王はパルクスの手の者に殺されて?」

「それがケンカの発端です」


……迷惑な連中だ。

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