第440話


「エミリア〜〜。お前ももうだぞ〜〜」

「ルーバー、まだ早いって」


ルーバーはもう嬉しそう……


「エミリア〜、男の子か女の子か」

「まだ早いってば」

「いい加減にしなさい、ルーバー」


すでにエリーさんから『エルフの祝福』を与えてもらったミリィさんは、無事に出産できる安心感に包まれている。アゴールは今回悪阻が酷くて仕事を休んでいたが、落ち着いた今は庁舎で事務をしている。妖精たちもいるし、往復に風の妖精たちが丁寧に送迎をしているようだ。

そして、問題はミリィさんの方だ。鉄板焼きのお店をしてて、匂いが悪阻を引き起こすと心配していたんだけど……


「冬季は店を休む。なあに、コイツらの宿泊費で十分冬の収入源は確保できる」


そう言って、エリーさんたちに目を向けるルーバー。テントで共同生活をしているが、部屋を一室借りているし、食事はルーバーの手料理を食べている。食事代も部屋代もとっているらしいので、それで十分なのだろう。ちなみにコルデさんとオボロさんはバラクルに部屋がある。


「ただし、エミリアは今までどおりメシを食いにくるんだぞ」

「はーい」


アゴールの悪阻から、ミリィさんの悪阻はちょうど冬季期間に重なると計算されてのこと。


「エミリア? 何をやってるんだ?」

「んー、ブレスレット、前に作ったの。どこにしまったかなぁ」


ステータスから作ったブレスレットをリストから探す。


「あれは回数制限つけてないから、売ってないはずなんだけど……」

「探しているのはこれですか?」


そういってピピンが差し出したのは白金プラチナのブレスレット。



「あ、それそれ。どこに置いてた?」

「テントの中です」


「ありがとう」といってピピンから受け取ったブレスレットをルーバーに渡す。


「なんだ?」

「ブレスレット」

「……それはわかる」

「輪っか」

「……ああ、そうだな」


私たちのやりとりを苦笑しながらみている『鉄壁の防衛ディフェンス』の皆さんとダイバ。エリーさんは眉間に皺を寄せている。


「エミリアちゃん、このブレスレット鑑定ができないんだけど」

「うん、これって『認識阻害のブレスレット』だから」

「「「はあああ?」」」


……全員から驚かれてしまった。たしかに、私が作って流通させている認識阻害のブレスレットは、外見を誤魔化すためのもの。ただ、ルーバーに渡したのはそんなものではない。


「ほら、最近ステータスを覗く連中がいたじゃない? だから妊娠がバレないように」

「バレたら困るのか?」

「そうね、今日の話し合いでそんな話題が出たの。それが事実かわからないし、その人たちが出て行ったのは確認されたけど」

「うん、またほかの人が入ってくるかもしれないし。仲間が残っているかもしれないし。今度は操って連れだすかもしれないし」

「エミリアちゃんはそれを心配してくれているのよね」


そう言って私を抱きしめてくれる。そして安心させるように背を撫でてくれた。


「……フルーツガーリックの害虫駆除アイテムも早く作るね」

「無理しちゃダメよ」

「私たちがちゃんとみています」

「まかせて。エミリアを寝かせるのは私の得意範囲よ」


ピピンとリリンの言葉にミリィさんは「お願いね」と笑ってくれた。

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