第415話


今日はミリィさんの店でパーティー。

ピピンたちの進化が無事に済んだことによるお祝いだそう。参加者は私たちとダイバ。ダンジョンから戻っていたエリーさんたち。アゴールは悪阻のため不参加。流石にさまざまな料理が出てきて、鉄板焼き屋のため匂いもさまざまだ。……妊婦には辛いだろう。もちろん、日を改めてバラクルでも三人のお披露目パーティーをするので、そのときに参加することでアゴールも納得した。そのあとは屋台村と庁舎の会議で、お披露目という名の飲み会だろう。

とりあえず今は第一のパーティーだ。私はグラスを片手に立ち上がり、みんなを代表してひと言。


「改めて、おかえりなさ〜い!」

「ただいま」


私に笑顔で返す白虎。


「皆様には色々とご心配をおかけしました。これからも、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」


そう言って頭を下げたピピンにあわせて、一緒に頭を下げるリリンと白虎。

その様子に、三人が人型ヒトガタになっても変わらないことに気付いたのか微笑みがこぼれる。


「「「おかえり〜!」」」

「では、かんぱ〜い!」


私の号令でグラスに口をつけると、一斉に食事をがっつく。


「ええええーい! がっつくな、男ども!!! あ、エミリアたちはこっちのテーブルな。テメエら、女性のテーブルに手を出してみろ! 一瞬で……」

「リリンの触手ムチを味わうよ」


私の言葉でピタリと動きが止まり静かになる。変わらないのはコルデさんとアルマンさんだけだ。彼らは普通に座って、テーブルにところ狭しと置かれた皿の攻略を始めていた。……勝手に取っていけビュッフェスタイルなのに、もうそんなにとってきたの?


「リリンちゃん、威力は?」

「大きくなった分、攻撃力は上がったかね?」


二人ののんびりとした質問にリリンはにっこりと笑い「試してみる?」と爆弾発言をした。その左手は、思わずトレイを載せたくなるように軽く上に向けている。触手をだすためだろう。ふと手元の取り皿を載せてみると、妖艶な笑みを浮かべたリリンは男たちの間をそぞろ歩いていく。そして、料理をてんこ盛りにして戻ってきた。


「放っておいても良さそうだな」

「女の色香に惑わされるとは……」

「この冬は特訓決定ね」


エリーさんたちの発言に誰も何も言わない。だって彼らはリリンの色香に惑い、手にしていた皿から料理を少しずつ取られていたのだから。


「これが戦闘だったら全滅ね」

「……みっともない」

「兄貴、『女に見惚れて死んだお笑い冒険者たち、ここに眠る』と刻んだ碑を遺してやる」

「ねえ、ダイバ。『その死に顔、鼻の下を伸ばしてニヤけており、まともな死に方をしておらず』って一文も追加しよう!」

「あら、『二目と見られぬその愚かなる死に顔、仲間の要望により人知れず埋葬される』って冒険者ギルドの活動記録に遺そうか?」


ダイバの言葉に私が乗るとエリーさんが記録に残すという。冒険者ギルドの記録は永久保存で残される。のちによその国で、どこかの大陸で、似た状況が起きていないか。そのときにどう対処したのか、という参考資料になるそうだ。

私のアント退治や虫の氾濫スタンピードによる対策も記録に残され、今は世界各国に拡散されている。記録には最初エア名義だったが、今はエミリア名義になっている。ギルド長など管理者のみが閲覧できるだけなのと、記録者が裏ギルド長エリーさんのため、エリーさんが対応していたようだ。

『記録に残される』といわれた皆さんの顔は青い。そんな恥ずかしい死に方をしたとなれば、ダイバじゃないけどとして笑われるのは確実だ。


「兄貴たち。妖精たちが植物の栄養代わりを探してるから、今なら喜んで農園に埋めてくれるぞ」

「そういえば、ダイバは徹夜で報告書を書き上げて疲れていただけで『穴を掘ってやるから栄養になってくれ』って言われていたな」


ウンウンとコルデさんが笑いながら頷く。


「起きれないだけで『死んだ?』って喜ばれたぞ」

「生きているのに気付いたら、『早く死んで』って声を揃えて言われたよね」

「それも笑顔でな」


私たちの会話に、ザワザワとざわめく。彼らは妖精たちがどんなにイタズラ好きかを理解していない。行動の原点は『面白ければそれでいい』というもの。今の彼らは農園を如何に豊作にするか、ということに興味を持っている。水を与えすぎて元気をなくしたのに気付いて泣きだした水の妖精を地の妖精と火の妖精がフォローしたりして、植物と真正面から向き合っている。

妖精たちと接してきたことで、別種とはいえ、花の妖精であるアンジーさんとシシィさんがあれほどイタズラ好きなのも頷けた。

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