第398話


「久しぶり」

「一年ぶりだな」


私たちが到着して挨拶すると、火龍がキョロキョロと周りを見回す。


「アゴールはきていない」


ダイバの言葉を聞くと火龍は「グルルルル」と小さく鳴き、ダイバの足元の地面に爪を立てた。青白い光が広がると周囲を半円の膜が覆った。


〈聞こえるか?〉

「ああ、大丈夫だ」


声の主は火龍、この膜は異種族間が会話する魔法らしい。


「今回はどうしたの? なんかアゴールにプレゼントがあると聞いたけど」

〈その前に話を。我に聞きたいことがあると妖精たちが言っていたぞ。我で答えられることなら答えてやろう〉


火龍の言葉に私はダイバと顔を見合わせる。


「俺たち竜人の先祖が、討伐した龍たちの血を浴びたのが原因で人から外れた種族だというのは知っている」


ウンウンと頷く火龍。彼は智の龍でもあるらしい。そのため私たちの相談にも乗ってくれる。


「それを前提として……魔物のドラゴンを討伐した場合、血を浴びた者は竜人になる?」


私の疑問に〈フム……〉と呟くと〈何か問題が起きたか?〉と聞いてきた。


「ちょっと竜人の話をしてて、『そういえば』となった」

「おかしいと思っていたんだ。竜人の成り立ちからいけばはずだ。しかし、俺たち竜人は増えている。中にはある一定の、本来なら『血の記憶』で知っているはずの知識を持たない竜人がいる。俺のいた国の隣国で『竜人の血は特別』だと入れ知恵した竜人がいた。それが俺たちが大陸を捨てた理由だ」

〈フム……。お前たち、今は竜人が二種類いると知っているか?〉

「うん。ダイバたちと、魔力のコントロールできない劣化版……むぎゅう」

「エミリア、いい子だから黙ってろ」


ダイバに口を塞がれ、そのまま抱えられて近くの岩場に腰掛けたダイバの膝に座らされた。


〈ダイバ、今のエミリアの言葉がそなたの質問の答えじゃ〉

「つまり、俺たちと違い同種で血を重ねすぎた連中が竜人となって人里におりて……? だったらなぜ俺たちを狙う? 混血を重ねて薄まった俺たちの血液より、竜人同士で濃くなった彼らの方が貴重じゃないのか」

「ねえダイバ。ダイバたちはその『濃い濃い血の竜人』とお付き合いある?」

「いや、ない」


ダイバは即答する。火龍の話でも、彼ら一族は種族ごとに人のこない島や潮の満ち引きで大陸と陸続きになる島にわかれて棲んでいるらしい。


「そ〜んな田舎暮らししている連中が、人里に住む竜人がって思う?」

〈そうじゃ。エミリアのいうとおり、連中はお主らも同族で血を濃くしていると思っておる〉

「俺らはただ人より長く生きるから同族で固まっているだけだ」

「その点はどっちの種族もおんなじなんじゃない?」

「おんなじ? なにがだ?」

「一族で一緒に住んでいるって点。自分たちはその一族内で血を濃くしてきた。だから同じく一族で住んでいるダイバたちも、一族内で血を濃くしてきた」

「すべて、そいつらの思い込み、ということか。……それで俺たちは国を、大陸を捨てて。家族もバラバラに……」


ツラそうな声を吐きだすダイバを見ていられなくて抱きつく。すると大きく息を吐きだしたダイバが抱き返してくれた。


「大丈夫だ。俺には守る者がいる。エミリアもその一人だ。妖精たちも俺には守る者だ。……いかりで暴走することはない」

「アゴール、みたい、に?」

「ああ」

〈何かあれば全力で守ろう。あの日の約束のとおりにな〉


私たちはあの日、約束したんだ。アゴールを守ることを。

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