第383話


スッパーン!

ぺっちん

「イッテェー!」


ダイバの頭部をリリンの触手ムチが打ち、私の額をピピンの触手が軽く叩いた。


《 ダイバ、エミリアも。ピピンが『いい加減に起きなさい』だって 》

《 リリンは『ダイバの分際で』だって 》

「分際⁉︎ リリン、俺はなのか⁉︎」


身体を起こしたダイバの頭の上で楽しそうに飛び跳ねるリリン。私はというと、いつものように白虎に起こされた。足を下ろすとラグが敷かれていて、そのまま裸足でいられるようにされていた。


「この差はなんだ」

《 愛情の差 》


ダイバの言葉に風の妖精が即答する。水の妖精からもらった冷たいオレンジジュースをちゅーっと飲む私に「俺にも何かくれ」といったら《 泥水? 》と光の妖精に揶揄われていた。



「エミリア、これは大事な話だ。……呪いに関して」


アイスコーヒーを飲んで人心地ついたらしいダイバが真面目な表情になると、はしゃいでいた妖精たちがスッと二階へ戻って行く。そのときに私たちの飲み物を追加するのを忘れない。


「エリーの持っていた魔導具が正常に呪いを起動した場合、どうなっていた?」

「…………滅んでた。なんせだからね」

「じゃあ、それで生きていられたのは?」

「魔導具が効いている私とミリィさん。エリーさんやコルデさんたち」

「魔導具の効果はなんだ?」

「即死や呪いの無効化。結界は光属性以外は効かないよ」


結界石にはいくつかの属性がある。水属性で作られた結界石は水を通さなくなる。

これは196番の湿地帯ダンジョンで五人の冒険者が生命を落とした事故を受けて、魔導具職人が結界で守れるように研究を重ねた結果の成功報告だ。ただ、同属の結界石でないと効果はほとんどない。さらに水属性の結界石のため、効果は水だけで魔物から守られない。

本末転倒だといわないでくれ。水属性の結界の内か外に、従来の結界を張ればいいのだから。

同じく、光属性の結界石を使えば火から、風属性の結界石を使えば火の起こす熱風から砂嵐、防風などの風全般から守られることがわかった。それは従来の結界を追加で強化が可能になった。

そして、光属性の結界石には治癒力がある。怪我がゆっくりではあるものの回復効果があるのだ。これは大きなニュースとなった。回復魔法が使えないダンジョンでも光属性の結界石が使えて回復が可能になったのだ。ちなみに以前は回復薬を飲んだり傷口に直接かけたりしていた。テントがあれば、その中で回復魔法が使える。しかし、ダンジョン都市シティで冒険者になった人たちでテントを所持している割合は少ない。


「呪いに騰蛇は立ち向かえないか?」

「……だから『呪いの魔導具が正常に起動して呪いが発動していた場合』だって。騰蛇は神の眷属で、ここは騰蛇も神獣たちからも守られているんだし。いま、妖精たちも頑張って守ろうとしてる」

「ああ、ここではどんなに巧妙に誤魔化しても発動しない、ってことか」

「そういうこと」


しゅるんっという音に目を向けると、床から金糸が解かれてアラクネが現れた。


「妖精たちが外に張った結界に魔物たちが突撃しています」

「なんでー?」

「なんだって⁉︎」

「魔物の氾濫スタンピードが発生したのよ」


アラクネが私に優しく説明してくれたが、ダイバには冷たい目を向けた。仲が悪い、というよりアラクネの口撃をダイバは躱したり軽く受け流したり、キャッチして投げ返したり……

まあ、ダイバの愛妻はステキな外見で再起不能な毒を吐く有名人。アラクネの口撃や攻撃はそよ風でしかない。それがムカつくそうだ。


「魔物の動向は?」

「どっかのクソ女神が封じられたからでしょ」


フンッとそっぽを向くアラクネ。昨日の封印のタイミングからいってもアラクネの予想どおりだろう。


「放っておいてもいいわ。妖精の結界があるから」

「とりあえず、情報部とヘインジルに報告しておく」


ダイバがステータスを開いて連絡を入れている間にアラクネは地中へと戻って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る