第322話


都長のヘインジルに、南部地域に二人の追加をお願いしたら、ヤンシスに関しては私が主人ということで承諾された。しかしコアルクの身柄は奴隷ではない。そのため、治療院が彼に罰を与えるという形をとることになった。

二人は今は良き友人関係となっている。お互いに同じ傷の舐め合いから始まったこの関係は、恋愛というより友情に近いようだ。もしくは『同じ傷を持った者同士』で繋がっていたのだろう。それが愛情になった。それは家族と違う、だから恋愛だ。

……うん、単純なオツムだね。


「二人を一緒にできるかわからない。それでも大丈夫そうか?」

「うん、それは大丈夫。精神的に強くなってきたから。植物がない場所に放り出しても十年くらいはもつかな〜。それに農作業じゃなくても、ダンジョン都市シティ内だからね。自然界の浄化で正常な考えがたもてるよ」


ダンジョンから持ち出された植物による空気の浄化、流れによる水の浄化、砂の流れによる地面の浄化。それらのうち前者の二つは、昔からこの都市まちの中で行われてきた。南部でも、大地には水が含まれて植物も雑草がいくらか生えているくらいだ。


「どちらの方が体力がある? できれば開墾に従事させたい」

「それならヤンシス。ああ、コアルクなんだけど、奴隷ではないなら魔法が使えるでしょ。彼、治療師なだけあって、水と地の魔法が得意らしいよ」

「そうですか。でしたら、彼には治水対策に加わってもらいましょう」

「とりあえず、上下水道と井戸掘り。あとは農場の水路ってところかな?」

「それと牧場周辺の水路を頼む予定です」


ヘインジルの言葉から、家畜の入荷予定の目処が立ったのだろう。家畜は生きている以上、収納機能が効かない。だから馬車で運ぶことになる。それは、強盗や魔物を呼び寄せることになり、想像以上に手間隙がかかるのだ。


「牧場は早くても来年になるでしょう。今は村と農場を優先にします」

「ワラは農場から貰えばいいし、エサも農場で作ればいい。最初は家畜用で、それから私たちの食料を作る?」

「いえ、農場を二手にわけて、人と牧場用にわけます」

休閑きゅうかんも考えた方がいいから、広さは二倍必要だよ」

「わかりました」


コアルクは魔法が使える状態で南部組に加わるが、攻撃魔法は封じられることになりそうだ。

この大陸の治療師は、ただの職業だ。ムルコルスタ大陸のように回復魔法イコール光魔法という考えではなく、もちろん治療院に攫われることもない。


《 回復も治療も、どんな属性魔法でも使えるようになってるんだよ 》

「じゃあ、私が大っぴらに使っても?」

《 問題なし 》

「治療院に連れて行かれるなんて」

《 ナイナイ 》

「治療魔法が使えるなら治療院で働け〜」

《 ナイナイナイ 》

「治療や回復魔法が使える妖精も働け〜」

《 ……悪化させるよ? 》

《 うん、傷口の消毒といって傷口を大きく抉ったりー 》

「ふうちゃんのことだから、傷のある腕や足を切断したり〜」

《 消毒と称して、傷口に大量の塩を塗り込んだりー 》

「塩水のプールに投げ込んだ方が面白いよ」

《 傷口を塞ぐといって火で焼いたりー 》

「ひーちゃんのことだから、傷口だけじゃなくて患者を丸焼きにしたり〜」

《 甘いよ、エミリア。私があとかたもなく消し炭にしちゃった方が、あと片付けが一番簡単ラクなんだよ 》

《 もう、そーゆー問題じゃないでしょ! 》


光の妖精の言葉に風の妖精が怒りだす。


「《 おこっちゃや〜よ 》」

《 怒るわー! 》


私と光の妖精が声を揃えていうと、さらに風の妖精が目を吊り上げた。

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