第312話


「みんな、半月お疲れさん。鑑定石で借金の確認が済んだら、今月の賃金を取りに来て」


借金奴隷でも賃金はでる。それを借金返済にあてるか、解放後の生活費にするかは本人の自由。主人わたしに預けて解放後にまとめて受け取るという方法も可能。


「え……?」

「ボクも……」

「どういうことだよ、これ」


鑑定石で自分の借金がいくら減ったかを確認していた八人が、お互いの稼ぎを確認しあって困惑していた。


「あ、の……。僕たち、の、返済金額が……えっと」

「なんでコイツらの方が俺より貰ってるんだよ……あ、いや、モラッテイルンデスカ」

「言い直したからセーフ。仮にも主人である私に対して言っていい言葉遣いじゃないよね」

「はい、すみません」


ハイルは目線を下げて青ざめたままコクコクと頷いた。ミリィさんの話では、エリーさんが引率する形で同郷の人たちを連れてくるらしい。誰がくるかは不明。それをハイルだけでなくフリンクとベイルにも伝えた。ハイルが言動を改めたのはその日からだ。


「まず、アリアス、キルヒ。君たちはアリシアの仕事の分も手伝っていたね。そしてアリシア、二人のお兄ちゃんが代わりに仕事をしてくれるからといって、それに甘えることもなく、自分でもできる仕事を見つけてやっていたね。そしてセウル、君は早朝から雑草を抜いたり、自分たちが使う道具以外もすべて使いやすいように作業する近くに置いていってくれてたね」

「僕は皆より借金が多いから……。それに農具をだすなら、僕たちだけじゃなく皆の分も」


私とセウルの会話に驚きの声があがった。


「え……? あの道具って妖精たちが並べているんじゃなかったのか⁉︎」

「ほーら、『してもらって当然』って奴がいる。自分でだしていないなら、誰かがだしてくれたって思わない? してもらうのは当たり前?」

私の指摘にハイルが恥じたように顔を俯かせる。


「ほ〜ら、これが賃金の差。五歳のアリシアだって、兄たちが自分の分も荷運びをしてくれて空いた時間で、雑草を抜いたり落ち葉などを手で一つ一つ拾って集めたり。農具はついた泥を水で洗えば傷むことを知っているから、雑巾で一つずつ綺麗にぬぐっている。では、ハイル。君は空いた時間で何をしていたかな? 農具の泥を落としていたかい? 剪断して落ちた枝葉を拾ったかい? アリシアが泥を落としている農具に、ハイル、君が使って放ったらかしにして片付けもしない農具が混じっていないと思うかい?」


放り出したままの農具を集めて道具倉庫へ持ってくるのはアリアスとキルヒだ。彼らは剪断した枝葉を二輪の猫車ネコで運んでいく。その帰りに農具を集めて戻るのだ。そしてアリシアが農具を磨き、三人が倉庫に片付けていく。その時に、翌日に必要な道具を準備していく。


「最初に言わなかった? ここは妖精たちがいるって。ちゃんと皆の作業を報告してくれているんだよ。セウルが早朝から作業を始めたことも、その内容も。ハイルたちエルフ組が作業を終えてから二時間後に兄妹たちの仕事が終わることも。ちゃんと作業内容も教えてもらっている」


さあ、何か賃金に問題でもあるかい?

そう聞いたら、ブンブンブンブンと首を左右に振るエルフ組。


「ああ、自分たちの仕事を肩代わりしてもらったんだから、三人の賃金から四人に支払いますというのかな?」


私の言葉に三人の首が高速で左右に振られた。

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