第306話


「はーい、借金奴隷は罪になりませんか〜?」


私が手をあげてそう聞くと、それまで固かったエリーさんの表情が緩んだ。逆にハイルはビクッと身体を震わせた。


「残念だけど借金奴隷は罪じゃないわ。ほんと、残念な話だけど、ね」

「でもエルフだから、死ぬまでずっと奴隷で過ごす可能性はあるよね? 三人とも」

「そうね。フリンクとベイルの二人は早めに自由になれるかもしれないけど」

「うーん……。ハイルは私が買わなかったら男娼館にいってたんだけど。ほら、王族や貴族たちが収容された木賃宿。ろくに働けないなら、そこに預けようかな。王都の騒動で付き合いができたから、払い下げしたら喜ぶと思うよ。顔がいいし、この大陸では珍しいエルフだから、常連客がいっぱいつくね」


私の言葉に顔色が白く変化してガタガタと震えだすハイル。自分の未来が輝きを失い、一歩踏み外せば奈落の底に落ちることにようやく気付いたのだろう。泣きそうな目で私を見てきた。


「ミリィさんは私にとって、大事なお姉ちゃんなの。そんなお姉ちゃんをイジメたハイルは絶対に赦さないんだから」


そんな宣言をした私をミリィさんが背後から優しく抱きしめてくれた。


「エミリアちゃん、ありがとう。私なら大丈夫よ。今は感謝してるのよ、エルフの里からでるキッカケをくれて。だって、エルフの里をでたからフィシスたちに会えたし。何より、こうして可愛いエミリアちゃんという妹に会えたもの」


大好きよ。そういって抱きしめてくれる腕は優しい。


「ミリィさん、怒ってない?」

「ええ、怒ってないわ」

「その代わりに俺が怒る。おいおい、よくも俺のミリィをイジメまくってくれたな〜」


ルーバーがそういってハイルを足蹴にする。それをマネて、届かないのに右足を伸ばして「えい! えい!」と上下に揺らす。


「もう、エミリアちゃんったら」


その様子にエリーさんが破顔した。


「ルーバー、やめて。エミリアちゃんがマネするわ」


ミリィさんの言葉にルーバーが最後にひと踏みするとこちらへ戻ってきた。


「ミリィお姉ちゃんをイジメた悪い奴は、私がやっつけてやる〜」

「エミリア、ミリィに対しての報復は俺がしてやったからな。もうやらなくていいぞ」


私のあげている右足に触れて下へと軽く押す。


《 代わりに私たちがやっつけてやるー! 》

「痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃ‼︎‼︎‼︎‼︎」


今まで大人しくしていた妖精たちが一斉にハイルの頭から足までポカポカと叩く。小さな妖精たちが叩いても痛くないように思われるが、本気でゲンコツで叩かれると骨や神経まで直接痛みが届くため結構地味に痛い。私は手を開いてペチペチ叩かれることがあるが、それは特に痛みがない。


《 エミリアに痛い思いをさせるわけないじゃない 》

《 そうそう。エミリアは痛くなくてもちゃんと悪いって反省するから 》


…………という理由らしい。

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