第287話


奴隷商は私に奴隷を数人差し出そうとした。もちろんノーマンが断ったが。


「……っていうか、なんで子供?」

「ああ、親に身売りされたらしい」


貧しいからこその口減らし。『何もすることがない』との理由から増える妊産婦。下の子が生まれれば、上の子が家から出される。この世界には奉公などない。だからこそ売られていく。

……どの国でもどこの世界でも、昔から繰り返し行われてきたこと。


「避妊ぐらいしろよ、とツッコミいれてもいいのか?」

「子供は一定の歳まで成長させれば金になる。親の考えとはその程度だ」

「浅慮だな。そこまでにかかるお金や労力は考えていない?」

「面倒をみるのは兄姉きょうだい。母乳や飼っている牛の乳を与えれば費用はかからない。それを差し引いてでもはある」


子供に弟妹の世話をさせるのは、いずれ奴隷となっても雑用ができる。それだけでも大きく変わるからだ、売却金額とのちの子供の奴隷生活が。中には『一歳未満の子供を望む』奴隷商もいて、奴隷商から声をかけられるらしい。その際、望まれて生まれた第一子以外なら、親は通常より高い金額( 倍額になるらしい )で我が子を売る。

ノーマンは赤ん坊で身売りされた一人だ。家族に愛されて実の息子として育ったらしい。幼い頃に家族でこのダンジョン都市シティに移住したが、その理由が面白い。


「『ここには罪を犯していない人しか入れない』なら、無罪を訴える自分たちがここに入れたら無罪証明になる」


そう言って、ほかの国から移住にきたらしい。その罪も横領や不敬罪などの大罪だったそうだ。


「お貴族様?」

「親がな。たしか祖父が爵位を複数持ってて、親父たち兄弟に分け与えたらしい」


領地を持たない子爵位で、兄の領地で経理を担当していたらしい。そして、兄たちに訴えられて捕らえられた。それで、ここまできた。


「あのときは緊張したぞ。子供心に『入れなかったらどうしよう』って思ってたからな。伯父たちには『存在自体が罪』だと言われ続けてきたんだからな」


家族三人は中に入れたことで無実が認められた。同時に移住も許可された。


「国に戻る気はありませんよ。すでに子爵位は有罪と信じた国王に奪われました。自分たちはすでに平民の家族です。どこに定住しようと自由のはずです」


そして、自分たちを有罪と断じた国に対して慰謝料を請求。もちろん断れば国家間の問題になる。そのため、国は慰謝料と迷惑料に口止め料を上乗せして支払った。


「祖父母もここへ移住した。王都に住んでいた伯父たちは、横領がバレそうになって父に罪を押し付けようとした。まあ、その後どうなったかは知らん。すでに国を捨てたからな」


それでも、大人たちは重い罪になっただろうと言っていたそうだ。慰謝料などが罪に上乗せされたためだ。

いま、ダンジョン管理部の経理課でノーマンの父親は働いている。

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