第251話


王都と王城の再建が始まると、ダンジョン都市シティにいた王族と貴族の子供たちは王都へ戻っていった。王都が封鎖されてすでに二ヶ月。冬が始まる前に住めるようにするらしい。

残りの王族や貴族たちが神の罰を受けているのは子供たちの口から伝えられた。神の罰を受けていない最年長の王族は十七歳になった側妃の王子。十八番目か十九番目の王子だそうで、特に期待もされずに育ったらしい。本人もいずれは臣籍降下するだろう。その時、自分は貴族ではなく市民の一人として生きるつもりだった。


「貴族ばかり多くなっても民は迷惑するだけです。だったら、自分くらいは税金を支払う側になってもいいんじゃないか、と思っていたのです」


そのため、彼は市民の生活を学び、民草として生きるための知識と技術を学んでいた。周囲も『貴族枠を一つ増やすより、市民を増やす方がいい』と思っていたらしい。彼が望む通り王族や貴族たちが通う学園ではなく、市民たちが通う学校へ通うことを許可していた。彼と同じように市井で生きる宣言をした子たちも、同じように学園ではなく学校へ通うようになっていた。その子たちは毛根から嫌われる言動をしなかった。

逆に、女の子で貴族の家に嫁ぎたい子は学園に通っていたようだ。


「それで、腐った考え方を身につけた、と」

「王族や貴族の閉鎖された考え方から抜け出せなかった、気の毒な子たちです」

「根本的に、その学園が悪いよね。王族と貴族の本来の立場を教えず至上主義を叩き込む。へりくだれとは言わないけどさ。自分たちが市民に生かされていて、自分たちは彼らが安心して暮らせる場を作り、時と場合によっては生命をかけて矢面に立ち領民を守るのが仕事という意識がないんだよ」

「はい。母も『いかに自分が美しく着飾れるか、そのことに女性たちは競い合っている。そのドレス一枚で領民の税金を下げられるかわかっていない』と申しておりました」

「そのお母さんは神の罰を受けてないね。死んでもいないみたいだけど?」

「ええ、すでに王城を退いています。生まれた弟の身体が弱く、療養のため自然豊かな村にある民家をいとまの代金として受け取り、そちらへまだ小さかったもう一人の弟と共に移り住んでいます」


五歳の弟だけ母親から離れるのを嫌がったため、一緒に連れていったそうだ。


「本当に良かったのでしょうか? 王位継承から大きく離れていた自分が……」

「相応しい、と言われたでしょ」


ダンジョン都市シティの人たちに確認はとった。

①国王たちにピピンたちが負の感情を取り除いて、ふたたび職務に戻す。

②国王たちはこのまま神の罰を受けさせるため引退。新しい国王には王子の中から選ぶ。

③ダンジョン都市シティのように、民主化して国民から代表を決める。

この選択で一番多かったのは②だった。

そして次に確認をとったのは『誰が国王に相応しいか』というもの。それに白羽の矢がたったのが、この王子だった。


『市井を知り、市民を知り、何より偉ぶらない』


それがここのみんなが彼を国王に相応しいと選んだ理由だ。


「他の弟や妹たちも協力してくれるっていってたでしょう? それでも決めかねる状態になったら、国民に真意を問う議会や選挙という方法をとればいい」


彼らは『自分たちがこれまで目をそらしてきた罰だ』と思っているようだ。そのため、残ったみんなで王都を立て直すと誓いあっている。

貴族排除の指輪をつけていた私たちだったが、一時的に外している。ただし、店や家は貴族排除のまま。


「まずは、自分たちを救ってくれたダンジョン都市ここの皆さんに、王族や貴族でも信頼してもらえるようになります」

「…………ガンバレ」


彼らの目標が低い。しかし、彼らにとっては『大きな目標』なのかも知れない。

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