第224話


妖精たちが疲れた表情で涙石から出てきたのは十日後。出てきたときから何も言わずに、私の服にしがみついてくっついている。そんな妖精たちをくっつけて私が作っているのはハーバリウム。ビンの中にドライフラワーを入れて、細かく刻まれたチュールを入れて、スライムのドロップアイテムの一つ、潤滑油を流し込む。


《 エミリア…… 》

「ん~?」

《 怒ってる? 》

「なんで?」

《 だって。勝手に危ないことをしたから…… 》

「何が危ないの?」

《 『聖魔士の国』だから捕まる可能性がある 》

「それだけじゃないでしょう?」


私から離れれば聖魔は討伐される可能性もある。一般常識から見れば、彼らはなのだ。そして妖精は見世物だ。睡眠薬の入ったビン詰めで売られることもある。死ねば光の粒子になって消える妖精だ。そんな捕らえた彼らを睡眠薬で仮死にしてビン詰めにしているのだ。

私が妖精のみんなと出会ったのも、そのビン詰めに入った妖精を偶然手に入れたからだ。白大金貨三枚、日本円で三千万円と高額だったが、それで生命を助けられるなら安いだろう。


「……もう一度、『ビンの中』に戻りたいの?」


思い出したのか、火の妖精がガクガクと震える。私が助けたビン詰めの妖精は火の妖精ひぃーちゃんだったからだ。


「もう……やめてよね」


私の言葉に妖精たちは何度も頷いた。



この大陸は聖魔士が他国以上に存在し、聖魔師テイマーは法によって保護される存在だ。私が六属性すべての妖精と契約していることは知られている。


「妖精を一匹くれ」


そう言ってくる大量のバカがいて、その全員を私が魔法で叩き潰した。聖魔がいないと弱いだろうと甘くみていた私に全身の骨を砕かれた彼らは、動かない身体で後悔した。


「エミリア、いいからおりろ」

「や~だよっと」


地面に倒れている男たちの頭の上に次々飛び乗る私にダイバが捕まえようと手を伸ばすが、その手をよけて別の男の頭に飛び乗る。その度に「ぐえっ」とか「ふげぇ」という声があがるものの、周囲はそれを面白がっていた。


「エミリアさん。ここで最後です」


全員の男の頭に飛び乗ったのを確認したアゴールに抱き抱えられて地面に下ろされた。


「見事に全身の骨を砕いちゃったなあ」

「頭は砕いてないよ」

「ええ。エミリアさんの魔法は誰より上手です。痛みを与えずに苦しませる。しかし治療は可能。……でしたがねえ。ダイバ、あなたが触っているせいで、正常に回復できない可能性が出てきましたよ」

「……あ?」

魔法をかければ回復したかも、と言っているのです。砂より細かく砕けた骨が、ダイバがそうやって持ち上げたり触ったことで回復しない可能性もあります」

「肩から腕の骨が生えたり、喉から足が生えたり……」


青ざめたダイバが持ち上げていた男の腕を地面に落とす。


「というのは冗談です」

「私としては、妖精を狙った時点で再起不能にしたいんだけどね。『妖精の罰』と一緒に大陸法違反で私直々に処罰させてもらうよ。……脳内崩壊という形で」

「そのあとはユーグリア領に送ります。魔の森に出没する魔物をおびき寄せる『生き餌』になってもらいます」


アゴールの言葉に青ざめる男たち。魔の森の生き餌とは、全身に傷をつけて、血の臭いで魔物を引き寄せるだ。


「ああ、そうですね。どうせ生き餌になるのですから、このまま治療をせずに送りましょう」

「……じゃあ、脳内崩壊はしないで声が出ないようにしよう。悲鳴は出るよ。悲鳴がでた方が魔物が寄ってきやすいんでしょ?」

「それはいいですね。雑談もなく、悲鳴で魔物を引き寄せる。大陸法で生き餌になる罪人にはその処置をするように進言しましょう」


私たちが楽しく話している横で「相手が悪かったな」というダイバの声が聞こえた。

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