第222話


アカンバナの鎮静剤は作ったことがある。ダンジョン都市シティで孤児が冒険者となった初期に、実際に魔物と対峙した時にパニックを起こす子がいる。親家族を殺した魔物と対峙した場合は特に、だ。彼らは無料のダンジョンで大人やベテラン冒険者に見守られて魔物と対峙する。魔物と最初に接触したパーティに討伐の優先権がある。それを別のパーティが横取りすれば罰を受ける。さらに、魔物から逃げて別のパーティに『押し付ける』のも禁止されている。だからこそ、戦闘が始まれば頼まれない限り手も口も出さずに見守る。そしてパニックを起こした子を落ち着かせるのも、見守る側の役目なのだ。

その時に使う鎮静剤は薬師やくしたちが作ったもので冒険者ギルドに卸されている。ただ副作用があり、トラウマが酷ければ効き目が弱いと勘違いしてしまい、多めに摂取してしまう。そうなれば、副作用が強くなってしまう。


「鎮静剤を作って冒険者ギルドに安価で卸してくれ」


私が錬金師だけでなく薬師やくしの肩書きを持っていることを知った職人ギルドから、そう言われたことがある。もちろんサクッとお断り。そして研究から二年して完成した鎮静剤はポンタくんに送った。元々この鎮静剤の副作用は眠気。一日しっかり眠って精神を回復させるものだ。それが強いと……永遠の眠りを迎えてしまう。特に子供に使用するのは問題だ。この世界には小児用というものがないのだ。


『子供なら大人用の薬を半分でいいだろう』

『この子は身体が大人と変わらないから、大人の薬を飲ませてもいい』


元の世界でも、そんなバカげたことをいう大人が多かったが、子供は大人とが違う。内臓は大人の年齢になるまで成長する。そのため、『子供用』がつくられているのだ。そして『兄弟の年齢が離れていないから、片方がもらった薬を飲ませてもいい』というのも間違い。

それを知っているからこそ、この世界の『薬事情』を知って驚いた。大人も子供も同じ薬を飲んでいるのだ。それも同じ液体の小瓶を同じ量で。

……これで副作用が出ないはずがない。

そして、子供のうちに死ぬ確率が高い理由もわかった。病気で免疫力が落ちているのに、身体にあわない薬を過剰に投与されれば生命を奪われて当然だ。


薬師やくしの神に祝福を受けし者』


この称号があるため、難しい調剤が必要な小児用も作り出せた。苦い薬も、花の蜜で作ったシロップを混ぜたことで甘くなって飲みやすくなった。

『エミリア名義』で販売されたことで、ポンタくんの職人ギルドには注文が集中したらしい。即時却下。即時勧告。警告おどしも忘れない。


「エミリアさんに直接注文しないでくださいね。もしエミリアさんに注文したことで妖精たちの不興を買い、国を滅ぼされたとしても責任は持てませんよ」


この言葉が効いたのか、私に直接言ってくることも手紙が届くこともなかった。

私服守備隊が軽い言い合いイザコザに巻き込まれたこともあったらしいが、お店のことか薬のことかは不明。ただ、妖精たちが出ていないから「お店はいつ開くんだー!」と絡まれた程度だろう。

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