第194話


「まず最初に。エリーさん、結界を強化した際に壊れたのは何でしたか?」

「ああ、預かっておいた。……これだ」


私の質問にダイバがポケットから壊れたリングを取り出した。


「これは商人ギルドで貰ったのですね」

「え? ええ、そうよ。『冒険者のお守り』って」

「待って、エリー。そんなもの、私たちは持ってないわ」

「だいたい、そんな『冒険者のお守り』をなぜが配るの? 冒険者ギルドならともかく」


ミリィさんの言葉に驚いたエリーさんに私が追加で指摘する。ダイバは壊れたリングについた魔石を睨みつけていた。


「エミリア。この魔石、調べられるか?」

「何を知りたい?」

「……これはか?」

「ああ、魔石の効果は盗聴それだけだよ。でもそれだけじゃないよ。……一瞬で心臓を止める呪いの機能がリング本体についてる。まあ、起動させようとしても魔石の方が先に砕けるけどね」

「エミリアちゃん。それはどういうこと?」


ミリィさんの目が厳しい。エリーさんの生命が狙われたのだから怒るのも当然か。


「これは抽出をしていない不純物の多い鉱石で作ったから強度が弱い。呪いの発動をした瞬間に砕け散っただろうね」

「たしか、呪いの発動をするためにはエミリアの抽出した金塊が必要だと言っていたな」

「それだけじゃないよ。まず、呪いを宿す魔石は『鉱石から見つかる魔石』が基本。そして、魔力が濃く未使用なもの。さらに……無属性」

「まって! 『無属性の魔石』なんて存在しないわ」

「いや。エミリアは無属性の魔石を見つけている」


エリーさんの話をダイバが否定した。魔石の情報はダンジョン都市シティ内で共有されている。今のところ、無属性の魔石は私以外持っていない。もちろん、誰かに売ることもしていない。


「エミリアちゃん以外には使えないって話だわ」

「正確には『属性がついていない』魔石。だから、どんな属性の魔石にすることができる。……これだよ」


ローテーブルに無属性の魔石を出すと、エリーさんが手に取って眺める。


「本当に、これって属性がついていないわ」

「はい。これに手を加えると属性がつきます」

「エミリアさん、これはどう見つかるんですか?」

「えっと……」

「そいつは秘密だ。公式には『妖精が見つける』とだけ言ってある」


キッカさんの質問にどう答えたらいいか困ってダイバを見ると代わりに答えてくれた。

実際には、妖精が見つけて私が『収納』する必要がある。発見しただけでは無属性にならない。さらに、妖精たちが触れてしまうと妖精の属性になる。……その際、妖精たちの魔力がゴッソリ抜き取られてしまった。とっさに魔石を『収納』したため大きな問題にはならなかったが。

そして魔石の調査をした。魔石が誕生したばかりのため、まだ中はカラ状態なのだ。そのため、魔力を一気に吸い取ろうとする。採掘されれば、その機能が停止する。『無属性の魔石』になるのだ。

そして、そこに問題が起きる。

魔石の容積を満たすため、魔力を際限なく吸い取ろうとする。妖精たちの魔力の元は私の魔力だ。妖精の魔力が減れば私から補給されていく。そのため、小さな妖精たちに負担はかからなかった。私自身もすぐに『収納』をしたため、少量の魔力を取られただけで済んだ。

しかし、この魔石を使って錬金などをしようとすると、『満タンにしよう』とする。これが属性を吸い込むだけならいい。しかし、呪いでも大量に吸収してしまうようだ。

ちょうど、私たちが喉が渇いて水を一気飲みするような状態に似ていた。


「無属性の魔石は結界の機能をつけている。最初に取り込んだ属性に変化するから」

「実は光属性を含ませて、ダンジョンに使いたいが……。現在はまだ使えない。悪用されかねないからな」


ダイバの心配もわかる。無属性の魔石のことを詳しく知られるわけにはいかない。特に呪いなどに……

それに気付いたミリィさんが「今は知らなくていいことよ」と興味を持って聞こうとしてきたエリーさんとキッカさんに言って、話を打ち切った。

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