第121話


「好きな幼馴染みは別の男のものになった。でも・・・俺が『村の英雄』になれば振り向いてくれるに決まっている」


「・・・はあ?何言ってんの、コイツ」


「エアちゃん。エアちゃん」


「気持ちは分かりますが『心の声』が口から出てます」


魔石に記録された『取り調べ中の光景』を見せてもらっている途中に思わずホンネが・・・。

村の救助に貢献した関係者として、『鉄壁の防衛ディフェンス』にも取り調べの映像を見せてもらえることになりました。私もその上映会に参加です。


「騎士団庁に報告したら其方ソッチで動いたわ。さすがに『魔石を壊して魔物を引き入れた』なんて大問題だもの」


「この人は魔物と通じていたんですか?」


「・・・それは」


フィシスさんたちが顔を見合わせて黙ってしまいました。


「言えないことならいいですよ。ただ『屍食鬼だけ』という点が引っ掛かったから聞いただけですし」


「そうなのよ。そばにゴブリンの棲息地があるのに」


「・・・フィシス。エアちゃんが指摘したいのは違う点みたい」


ミリィさんの指摘に皆さんの視線が私に集中しました。


「俺も『ゴブリンの棲息地が近くにあるのに屍食鬼だったのは何故か』と思ったけど」


「『ゴブリンじゃダメ』ということか?」


「そういえば『人に気付かれないくらい完璧に人に化られる』のが大事だったよな」


フィシスさんたちの『教育』が聞いているのか、皆さん『自分で考える』ことをするようになってきました。こうやって意見を出し合うと、間違った意見でも指摘しあって正解に近いところまで来れるようになりました。


「ねえねえ」


一緒に仲間に入っていたマーレンくんが隣に座っているソレスさんに声をかけています。

マーレンくんは「大きくなったら僕も冒険者になる。そうしたら僕が『食材お肉』を取りに行くよ」と言ってママさんを驚かせていました。パパさんとユーシスくんは薄々気付いていたようです。


「僕ね。この前『操られた』でしょ?あれから考えたんだ。僕は料理人に向かないって。それにお兄ちゃんが頑張ってること、僕にやれって言われても無理だよ。だから、僕は冒険者になって食材を採ってくる。僕が採ってきたのをお兄ちゃんが料理するんだ」


マーレンくんの思いを誰も反対しません。ママさんも驚いただけで反対はしていません。いまは『冒険者見習い』として、手が空いている時はこのような座学に参加するようになりました。アルマンさんの鍛錬にも参加しています。まだ「腕立て伏せが5回まで出来るようになったよ」とのことですが。参加し始めた頃は2回までしか出来なかったので進歩です。


そんなマーレンくんが『大事な指摘』をしてくれました。


「グールって何処に住んでるの?」


慌てて地図を出してテーブルの上に広げます。


「えっと・・・此処だ此処」


此方コッチの方が近くないか?」


其方ソッチは棲息地まで雪が深い」


「じゃあ『ヤスカ村に近い棲息地』ってなると、この場所じゃないか?」


シルオールさんが指差した場所は離れています。


「この間に村がありますね」


「「 いーち。にー。さん!」」


アクアとマリンが指を差して数えていきます。


「これは?」


マーレンくんが指差した点は街道に設置されている騎士団の砦です。ただの見張りで対象は魔物です。砦の近くに棲息地があり、騎士団が常駐しています。


「此処は近くにオークがいます」


『オーク』という単語に、思わずエリーさんに目を向けてしまいました。エリーさんは変わらぬ表情で安心しました。


「エアちゃん?エリーに聞きたいことがあったの?」


その様子を見られていたようです。


「ヤスカ村はゴブリンの棲息地に近く、今回破壊された施設に『見張り台』がありましたよね。ってことは、彼処あそこは『砦だった』ということじゃないですか?」


「ええ。そうよ。王都から近いこともあって人々が集まって集落が出来て村になって・・・え?あら?・・・ちょっと待って」


「シシィ隊長?どうしたんですか」


シシィさんが黙ると皆さんが心配そうにシシィさんを見守っています。シシィさんは地図に近寄ると「此処の砦・・・。違うわね、此方こっちの村かしら?」と確認しています。


「シシィ?・・・ああ。『そういうこと』なのね。・・・じゃあ。此方の村じゃない?」


「でも、その村だと『あわない』のよ。ねえ、エリー」


「「 この砦って『村』になってない? 」」


シシィさんとアンジーさんが声を合わせてエリーさんに確認しています。


「なってるわ。村というより屋台や露店が集まった感じだけど。・・・それがどうしたの?」


シシィさんとアンジーさんは顔を見合わせて頷いています。


「冒険者ギルドから、この近くの村々がどうなってるか大至急調べて」


「此方は騎士団庁に常駐隊がどうしてるか聞いてくる。その上で村の守備隊と連絡を取ってくるわ」


「だから、なんなのよ!」


「分からない?」


「「 棲息地に近い村も魔物に襲われた可能性があるのよ 」」


その言葉を残して、シシィさんとアンジーさんは飛び出していき、続けてミリィさんに抱えられたフィシスさんが連れ出されていきました。

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