第76話
時計を確認しても、テントの外を確認しても、まだ誰も戻ってきていません。馬車の幌がすべて下りて『目隠し』になっているため、馬車の外を確認することは出来ません。
時々、アクアとマリンが後部の幌を上げて中を覗いては笑顔で頷き合っています。
「何かあったのかなあ・・・」
私室の執務机で、ゲームで得た『錬金術』をノートに書き込んでいたけど、誰からもメールは届いていません。
あれからすでに三時間。エリーさんは『事実確認をするだけだから二時間もあれば十分』と言っていました。
・・・連れて行った『交渉人一行回収隊』が、遺族や町民に責められてトラブルが起きたのでしょうか?でも、それは『お門違い』でしょう。責められるべきは『交渉人一行』であって回収隊ではありません。そして、責任と謝罪を求める相手は事前交渉を行わず一方的に交渉人を送りつけてきた『セイマール国』にあります。
回収隊には『その目で見た事実』を国に伝えて頂く
「エリーさんたちにキッカさんが同行してたらメールで聞けるんだけどなー」
今回、キッカさんやアルマンさんたちは『居残り組』です。こういう時に様子が聞けないのはツライです。自分が張った結界ではないから、外に出て様子を聞くことも出来ません。
私室の隣の空き部屋に作った『錬金部屋』に移動しました。この部屋は『
この世界で知られていく通常の調合レシピを作っていきました。それから『薬用キノコ』を使ったレシピ。『薬用キノコ』は、ゲーム内でいう『毒消し』の役割を果たしています。
そして、すでに私には『
『
『回復薬(中)を作るのに回復薬(小)と薬草』とレシピにあったら「じゃあ回復薬(小)を2個使ったら?」と思うじゃないですか。
回復薬(小)を3個使ったら『万能薬(小)』が。回復薬(中)を3個使ったら『万能薬(中)』が。そして回復薬(大)を3個使ったら『万能薬(大)』が。回復薬(特)を3個使ったら『万能薬(特)』が誕生しました。
ちなみに2個では何も起きませんでした。だから3個使ったら成功してしまいました。
レシピが違うと、調合窯は動きません。爆発しません。
速攻で来ましたよ。ポンタくんから「何をしたんですかー!」って
ポンタくんの慌ててる意味も分からず万能薬を4種類作っていたら、施設に入ってきたオボロさんに「エアさんにお客〜」と呼ばれました。
「良い人?悪い人?普通の人?」
「態度の悪い、面倒くさそうな人、ですね」
「・・・会いたくないです」
「じゃあ、『エリーとキッカ同席で。嫌なら守備隊も同席』って伝えるよ」
「すみません。お願いします」
元々、「知らない訪問者とひとりで会わないように」と言われています。アルマンさんたちに同席してもらえば良いのでしょうが・・・。『世間知らず』の私では判断ができないため、エリーさんやキッカさんたちに同席してもらった方が良いでしょう。
たぶん、オボロさんはそれを分かっていて、一応、来訪者を告げに来たのでしょう。そして私には『相手は誰か』を教える気はないようです。
ですが・・・。直後に建物の外から窓を覗いている人たちがいました。
残念ながら、この薬学施設にはアルマンさんたちが『覗き防止』と『侵入者排除』の機能をつけていました。魔法と装置だそうです。窓を覗けば、キッカさんやアルマンさんたち一部の人たちに写真が送られるそうです。おかげで、ジロジロ覗かれていても気になりません。
『ちびっ子剣士』が駆けつけて、棒切れを手に追い払ってくれました。この時間はアルマンさんの鍛錬を受けていたため、すぐに飛び出してきたようです。
アクアとマリンは、夕食時に私の姿が見れるということで結構落ち着いているようです。『一緒に暮らせる』ということでテンションが上がっていましたが「騒ぐとテントから出て来なくなるぞ」と脅されて大人しくなりました。
さらに薬学施設の所有権が私に譲渡されたことで、『嫌われたらずっと出て来なくなる』と思っているようです。
「貴女は『薬学の神』から祝福を頂いたようですが・・・」
「・・・エリーさん。この人たち、ダレですか?キッカさん。何か知ってますか?」
エリーさんとキッカさんに同席してもらい、昼間に来た人たちと会っています。ですが、アジトの応接室に先に入っていた人たちは挨拶もなく、私たちを入り口に立たせたまま、一方的に喋り出しました。
「さあ?誰でしょうね」
「俺も初対面ですけどね」
「マナーもシツケも出来てないわね。・・・キッカ。
「ありませんね。お引き取り願いましょうか」
「そうね。時間の無駄だったわ。此処はキッカに任せて私たちはティータイムを楽しみましょ」
「ちょっと待て・・・」
「え?『待て』って命令形・・・?ナニサマ?」
私の驚いた声で失言に気付いたようです。
「いいの。いいの。キッカ、後は任せたわ」
「はいはい。お嬢様方は優雅なティータイムをどうぞ」
キッカさんに見送られ、エリーさんに連れられて食堂へと足を向けました。其処にはフィシスさんたちが何時もの
「エアちゃん。
「・・・さあ?」
私が首を傾げると全員の視線がエリーさんに向きました。
「話以前に、挨拶も出来ていなかったから、私とエアちゃんは出てきた」
「部屋へ入ると同時に一方的に喋り出されて。私たち、挨拶以前に椅子にすら座らせてもらえなくて、ドアの前に立たされたままだったの」
「んー?エアちゃんが「何処にも所属していないだろうし『冒険者なんか』やっているくらいなら薬師にしてやるから代わりに自分たちの『所属』に入れ」って・・・。ちょっと叩き潰して来ようかしら」
「『所属』って何ですか?」
「ん?ああ。エアちゃんは『はじめて』だっけ。連中は『
「一方的に・・・ですか?」
「そうよ。薬師にノルマを課して薬を作らせて、その
「ポンタくんのところにも薬師さんいますよ?」
「ああ。ポンタたちは不当な扱いを受ける薬師を減らすために『職人』として登録しているんだ。ギルドに加わるのにエアちゃんの身分証が必要だから来たらしい」
「ねえ、エリーさん」
「どうしたの?」
「・・・もうすでに、ポンタくんが『職人ギルド』に登録しちゃいましたよ」
「え?いつ?」
「祝福をされた直後にポンタくんから連絡もらって。ポンタくんが職人ギルドに名前を登録するって。ちょっとしたら『名前を登録するから身分証を貸して』って言われて貸しました」
私がそういうと、食堂で私たちの話を聞いていた皆さんが大笑いしてしまいました。
「おかしい・・・ですか?」
「お、かしくな・・・。いや。エアさんを笑った訳じゃないです。必死に自分たちのギルドに入れようとしている連中が・・・滑稽で」
「エアさんが『祝福を受けた』ということは、通常の効果より高い薬が作れるんです。それを連中がエアさんに薬を作らせて、その薬を独占し自分たちの販路でボロ儲け・・・って計画していたんです」
『捕らぬ狸の皮算用』ですか。
でも怖いのは『予定が狂った』と言って逆恨みされることでしょうか。
「巫山戯んな!」
「そんなことある訳ない!」
「俺たちは此処を見張ってたんだぞ!職人ギルドのヤツが入ったのも此処から出た女もいない!」
男の人たちの騒ぐ声が聞こえます。エリーさん。キッカさんに話しましたね。
「直接話をさせろ!」
「俺たちのギルドに入るように説得してやる」
「説得じゃなく暴力で言うことを聞かせる気じゃないの?・・・でも此処でやる?」
「アクア。マリン。連中がエアちゃんに手を出そうとしたら取り押さえて」
「「はーい」」
「『かまいたち』で切り刻んで、薬の効果を試してみようかしら」
通常の回復薬と『祝福後の回復薬』の効果を試してみたいです。ちょうど『実験体に立候補』してもらえるようですからね。
「あーあ。エアさんが怒ってる」
「まあ。『効果を試したい』エアさんと『効果を実際に試してみたい』連中がいるからなー」
「エアさーん。通常の『回復薬・小』は手足を砕いても1本しか完治しませんよー」
「飲ませるんですか?」
「外傷ですから掛ければいいです」
「・・・床が汚れますね」
「エアさん。心配するところは
床が汚れたら困ると思うんですが。
「エアさんの薬で、汚れた床が綺麗になったりして」
皆さんと楽しく話していたら、男性が4人、ドカドカと食堂に入ってきました。
アクアとマリンに押さえつけられた人たちは、しっかり『二度と付き纏わない』という誓約書を書かされました。昼間にアクアとマリンに追い払われた時の人たちだったようで、二人を見てすぐに降参しました。
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