正直な嘘 ~君のセカイ~
米塚 亜生
プロローグ
「好きだ。」
俺は気づくとその言葉を放っていた。
見ず知らずの女の子。
茶色で長い髪。
斜めがけの小さなカバンと白いかわいらしい傘をもったその姿はまるでおとぎ話に出てくるお姫様のように綺麗だった。
一目惚れってやつだろう。
雷が落ちたと思うくらい強烈な感情だった。
しかし、そんな俺の言葉は君に届くことなく燦然と降りしきる雨の中に消えていった。
◇◇◇◇◇
「おい、だいじょうぶか?フラれたくらいで落ち込むなって。」
「うるせぇな、聞こえてなかったしノーカンだろ」
俺は雨宮海晴。
苗字が雨なのに名前は晴れ。
こんなよくわからない名前のせいか雨の日も晴れの日も嫌いだ。
大学2年でアルバイトをしながらギリギリで生活している。
今日の昼も自分で作ったモヤシ炒めだ(10円)。
弁当につめられたモヤシをご飯のように食べるのがたまらない。
そんな俺と対称的なのがさっきから俺にフラれたと茶化してくるこいつ、高野裕二だ。
俺はこいつをユウ、ユウは俺をカイって呼んだりしている仲だ。
裕福な家系に生まれ、顔だちもいい。
運動もできて常に女子の狙いの的だ。
ちなみに、こいつの昼はいつもパンかコンビニのおにぎりだ。
もっといい飯食えよっていつも言ってるんだが、「お前と食うのが楽しいんだ。」って聞いちゃくれない。
俺みたいなパッとしないやつと一緒にいてくれるだけでもありがたいんだけどな。
口におにぎりを詰め込みながらユウが言った。
「でも、まさかあの人が好きだっていうのはちょっとびっくりしたわ。カイのことだし面倒みてくれるお姉さんみたいな人が好みだと思った。」
「お姉さん好きなのはお前だろ!」と反論しつつも少し気になったので聞いてみる。
「正直あの人が誰なのかって俺よく知らないんだ。一目惚れって感じで名前もなにも知らなくてさ。」
「確かに顔はいいと思うけどあまりいい噂は聞かねぇぞ。同じ学年だけど留年生で、講義もあまり出ないし何してるのか謎なんだよ。」
「そうなのか。」
俺はユウの話を聞いてがっかりしたわけじゃない。
逆にもっと知りたいと思った。
「名前は?」
改めて聞いてみる。
「山下、山下空。たしかそんな名前だった気がする。」
この日、彼らのセカイは動き始めたのであった。
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