第23話 外で情報交換中

 そして日が暮れて。

 夕食を食べてファナが横で寝息をたてはじめた後。

 俺はあの世界をログアウトする。

 途端に押し寄せるちょっとかび臭い空気。

 そういえば最近風通しをしていないな。

 ゆっくり立って換気扇のスイッチを入れる。


 さて、あのアドレスへ行く前にちょっとだけ調べておこう。

 あのアドレスを検索窓に入れて調査。

 どうもVRでもそれ以外でも使えるグループチャットのようだ。

 VRで接続するかどうするか考え、俺は自分の旧型パソコンを起動する。

 会社貸与のパソコンでアクセスするのはまずいかもしれないと思ったからだ。

 監視ソフトでいちいちチェックされていたら嫌だしな。

 別に見られても大丈夫だとは思うけれど念の為。


 取り敢えず時間までまだ1時間以上ある。

 だからコンビニに買い出しに行ってこよう。

 俺は服を着替え電動シェーバーやブラシで何とか体裁を整える。

 時間は有効に活用しないと勿体ない。

 ファナのいる世界に少しでも長くいたいから。

 

 コンビニまで往復しておにぎりとサラダと牛乳という食事を食べ、さっとシャワーを浴びる。

 少しネットサーフィンをして時間を潰したらちょうど午後11時30分。

 コピペしたアドレスを貼り付けてエンターキーを押す。

『パリアカカ攻略No.35』

 そんなタイトルのグループチャット画面が出て来た。

 ユーザ名を聞かれたので、『guest』。

 パスワードは『Yanamca』と入力する。

『guestさんが入室しました』

 そう表示されてグループチャットが使用可能になった。

 ちなみに他にログインしているのは『レンソ』1人。

 名前からしてあの行商人だ。

『お客さん、やっぱりあの世界のオリジンでは無かったんですね』

 そんなメッセージが表示される。


『あの行商人さんですね』

『ええ。気ままに旅しながら商売と情報探しなんて事をしているわ』

 情報探しか。

 ならちょっと踏み込んで尋ねてみよう。

『80分教養試練はどうでした?』

 勿論エントリー時の教養試験の事だ。

 何のことだと聞かれるか、または。


『やっぱり正社員募集に釣られたお仲間ね。何となくそんな雰囲気を感じたのよ。それにては農民なんて地味で動かない職業をしているようだけれど』

 間違いない。

 こいつは俺の同僚だ。

『まずは基盤固めからしようと思いまして。ところで仕事の方はどうです?』

『今ひとつね。色々な街を回っているけれど大魔王なんてものの痕跡なんて全然見つからないわ。それに色々仕入れていた獣人の村の3割近くが全滅しちゃって商売も色々大変だしね。運営の方からは全滅した獣人の村を調べろなんて命令も来たけれど何もなかったわ』

 そうなのか。


『こっちは全滅した獣人の村で悪しき存在アービラなんてものが出て来たぞ。何やら魔法陣が書いてあったり生贄の血痕が残っている祭壇もどきとかもあったし』

『そういえば何回か悪しき存在アービラには襲われたわね。まあそんなものかと思っていたけれど』

 おいおい、何ともったいない事を。


『運営に言わせるとあれが手掛かりのひとつらしいぞ。1件報告したらちょっとだけだけど昇給した』

『ええ、そうなの!』

 おいおいおい。

『世界から自然発生で作り上げたゲームに神とか悪魔とかいる筈ないだろ』

『だってゲーム世界なんだからそれくらいいて当たり前じゃない』

 なるほど。

 志村氏がゲームに詳しくない俺を歓迎した事を思い出した。

 なるほど、ゲーマーは『こういう事があってもゲームだから当然』と思ってしまう訳か。

 でもついでだから教えておこう。


『あの世界では魔法は存在するけれど、それはこの世界の物理法則と同じような扱い。だから神も邪神もいないし名状しがたい存在なんてのも本来いない。いたら運営の関知しない存在だからすぐ報告。それだけで基本給が2回上がったぞ』

『ええ、そうだったの! 全然気づかなかった! だったら運営もそう言ってくれればいいのに』

 この辺が認識の差なんだな。


『ちなみに給料ってどれくらい上がったの?』

『2回上がって合計5,000円位かな』

『うわいいな。まだ私最初のままなのに』

 それは色々見逃しているからだろう。

『今からでも全滅した獣人の村を探ってレポート出してみればどうだ? 誰も見ていないところだったら昇給の可能性もあるしさ』


『そうね。参考までにそっちがもう回った村は何処と何処?』

 確かにそれを教えないと無駄足を踏ませるよな。

 なら教えておくとするか。

『ニルカカから北側の谷間を下りて西からの谷との出合のところにある村と、あとはほぼ東へずっと行って大斜面を半ばまで下りたところの村。その2つは探索済み』

『猫獣人の村トラレノンと犬獣人の村ドルスカね。それ以外を回ってみる』


 そこでちょっと俺は頼みたいことを思い出した。

『そう言えばこの辺の獣人の村を記載した地図ってあるかな? あれば欲しいんだけれど』

『運営の地図には獣人の村は入っていないからね。でもゲーム中に他の商人から買ったものならあるわよ。そうね、明日の朝までに運営からもらった地図を複写して獣人の村を書き加えておく。それを渡せばいいでしょ』

『それは助かる。ありがとう』

『こっちこそよ。さて、さっさと獣人村回って給料稼がないと』

 やる気満々という感じだ。

 あ、そうだ。

 その前にあの敵についても注意喚起しておこう。


「あと注意。俺達と同等の能力を持つけれど違う目的でうろうろしている奴がいる。獣人の村で妙な儀式をやった奴らしいけれど運営も正体を掴んでいない。充分注意した方がいい」

「それっていきったただの廃人ゲーマーじゃないの」

「運営はそうではないと見ているようだ」

「わかったわ。一応注意しておく」

 大丈夫かな。

 どうも給与アップ作戦しか頭に無さそうだけれども。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る