第13話 気分はピクニック

 用意した水筒はこの世界ではちょい流行遅れの銅製だった。

 何故流行遅れかというと、今の『パリアカカ』世界では鉄が流行っているからだ。

 元々『パリアカカ』の世界に鉄器は無かった。

 だがゲームプレイヤーがチートプレイで知識を伝えた結果、今では鉄の生産が広まっている。

 農機具等も古いものは銅や青銅製だが最近のものは鉄製だ。

 俺の農場も農機具は鉄製で揃えている。

 鉄の方が硬くて軽いので、武器等も鉄製の方が有利だ。

 でもそれだけではない。

 何でも銅よりも鉄を使う方が色々流行っていたりする。

 水筒なんて錆びそうなものすら都市方面では鉄製が多い。

 俺としては水筒なら銅の方が錆びないし腐りにくいし便利だと思うのだけれども。

 農機具なら鉄の方が硬い分使いやすいけれどさ。

 

 この村で調達するとその辺がどうしても古い道具メインになる。

 まあそれで困る事も今の処無いけれど。

 鍋とか釜なんてのも銅製の方が熱伝導率がいいような気がするし。

 何せ今は鉄の方が値段が高いという状態だから。

 現代人の俺から見たら銅製品の方がお買い得感がある。


 さて、そんな余計な感想はともかくとして。

 木製の弁当箱と銅製の水筒を背負いバッグに入れ、ファナは背負いバッグの他に剣鉈を腰にぶら下げる。

 更にファナのバッグにはロープとか各種フックとかが入っている模様。

 その辺の実践的知識は俺よりファナの方が上。

 なのでもう任せたままにしている。

「それじゃ行こうか」

「はい」

 出発だ。


 まずはグチャグチャの森の東側にある尾根を歩く。

 尾根筋は人も動物も通るため歩きやすい。

「今回はどんなものを探すつもりでしょうか」

 一応昨日中に今回の目的は話してある。

  ① クマ魔獣なんてものは通常まず出ない。

  ② そんなものが出たからには何か異変が起きているかもしれない。

  ③ もしそうなら村が危険になる可能性もある。

  ④ だから危険性が無いか調べに行く。

という感じで説明済みだ。


「通常この辺では無いような物事を探すのが第一かな。見たことが無いような魔獣とかその痕跡、あるいはマナの異常な集中場所とかさ」

「何が起きているかわからないから、具体的に何があるのかもまだわかりませんよね。実際何もないかもしれませんし」

「何もなければそれでいいんだけれどな」

 本音を言えば妙な物を発見して報奨金を貰うより村が平穏な方がいい。

 何やかんや言って今の生活は気に入っているのだ。

 今年は輪作の続きの他にジャガイモを連作する方法をいくつか試してみるつもり。

 これが出来れば生産性は一気に上がる。


 何か現実世界よりこっちの方で暮らしている感じだよな、俺は。

 何せ向こうでは必要最小限以上の事はしていない。

 後のほとんどの時間はこっちで生きている。

 入ってしまえばここが演算世界だなんて事は感じない。

 今だってVR越しの感触だとは思えないほど世界が豊かだ。


「今の処特に変わった様子は無いですね。サクヤ様はどう感じますか」

 ファナの台詞に我に返る。

 そうだ、今は異変探索中だった。

「俺もいまのところ何も感じないな。下に何頭か反応があるけれど只のクマとか大猫程度だろ」

 とっさに魔法で走査をかけて結果を言っておく。

「そんな感じです。変わったところは無いですね」

「何もなければいいんだけれどな」

 空は青い。

 冬だから寒いけれど日向にいれば太陽がかなり暖かく照らしてくれる。

 異変捜索なんて目的が無ければファナと気分よくハイキングってところだ。

 尾根側は基本的に草地で歩きやすいし。


「今日はどの辺まで行きますか」

「この先、この谷が西からくる大きな谷と合流する。今見えているあの山の右下あたりかな。谷の合流地点近く降りてその周りをぐるっと調べてみようと思う」

 この下の谷間でも動物の反応は結構ある。

 つまり本来ならクマ魔獣はわざわざ村の近くまで登ってくる必要は無い筈だ。

「ならまだまだ先になりますね」

「でも谷に下りきる前に昼食にしよう。下まで行くと暗くて寒そうだしさ」

 深い谷なので下まで日光があたらない。

 そうなるとこの季節は寒いだけだ。


「今日のお弁当はちょっと凝ってみたんです。楽しみにして下さい」

 そういえば早朝から色々キッチンでやっていたな。

「わかった。どんなものかな」

「食べるまで秘密です」

 俺だとせいぜいふかしたジャガイモを詰める程度だけれどな。

 こういうところも現実世界と違って楽しい。

 ファナは可愛いしさ、やっぱり。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る