第610話
「ふふ。また蹴った。元気やねぇ~? 誰に似たんやろ? きっとうちやね。才様は普段はおとなしい方やったし。ちいちゃい頃はそらうちもやんちゃでな? 走ったり跳んだりして、珍しいもんがあればとにかく口に入れて――」
(ほ、本当にお腹膨らんできてる……)
気づいてからは早いもので、三日もすればお腹は大きく。
日に日にどころか数時間ごとに大きくなるお腹は瞬ちゃんに罪悪感を与える。
あの状態の彼女なら頭おかしくなったってなっても仕方ないし、それよりも三日で十月十日くらいお腹大きくなるほうに驚こうよとも思う。
ま、和宮内家にとって彼女は生き神みたいなものだから多少のことでは驚かないんでしょうね。突拍子もないことなら。逆に身近なことなら驚くかも。急に彼氏ができたーとか。結婚した~とかね。ふふ。
「良かった……ね。おめでと」
「ふふ。おおきに。この子が産まれたら……どうなるんやろ? 瞬から見て叔母とかともちゃうし」
「……じゃ、じゃあ…………お姉ちゃん…………。私が……」
「ふふ。せやねぇ。それがええ。それがええわ」
「う、う、うん」
「ほんなら。ほら、あいさつしたって?」
ポンポンとお腹を叩けば誰へのかはわかるね。
「……こ、こんにち……は。お姉ちゃん……だ、よ? えっと……」
「ん? なぁに?」
「な、な、名前……決めてる?」
「あ、うん。決まっとるよ」
「な、に?」
過去にいくつか上げた名前。そのときのやり取りを思い出しながら、彼女は自分の子供の名前を瞬ちゃんに教える。
「元気な子やし。明るそうやから
あの時のやり取りの中で、特別長くいた子――雪日ちゃんの言葉を思い出す。
(そういえば……あの子はうちと違う読み方しとったなぁ~。あの子はずっと独り身でうちに寄り添ってくれたし……うん)
それは名付けってわけではないけど、でも残せるモノだから。
「
「う、うん。良いんじゃ……ないかな……?」
名前の良し悪しはわからないからそう答えるしかない。でも、名前なんてわかればそれで良いから。
「
――ね。って続けるつもりだったんだ。瞬ちゃんは最後によろしく『ね』って言おうとしてたのよ。
でも、言えなかった。
「ま、瞬……」
瞬ちゃんの手が置かれてるのは彼女の膝の上。
突然ひよったとか。間違えたとかじゃない。
「瞬……っ」
肘から先は焼き切れているから。支えるものがないだけ。
何故焼き切れたかって?
それはね。
空からやってきたモノが、彼女目掛けて白炎の玉を放ったけど、この星についたばっかで感覚が掴めていないからズレたんだ。
つまり、流れ弾で死んだんだよ瞬ちゃんは。
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