第294話
「いや~やっと話せるね」
「どっかの誰かが息切らした挙げ句パフォーマンスを始めたせいで注目の的だったからな」
今は壁際に避難できているが、さっきまで客に囲まれてたから俺は現在テンション駄々下がり。元からだけど。
テンションうんぬんは置いとくとしてもかなり精神的に疲れたのはたしか。
あんたははこういうのに慣れてるから平気だろうが、俺はめっちゃ疲れたよ。
つかその囲んできたのもほとんどがあんた目当てだってのに巻き込みやがって。反省しろよゴリラもどき。
「散々待たせた事だし。早速本題に入ろうか」
そりゃ助かりますわー。
肉体面の疲労はなくても精神面はまだまだ未熟なもんでね。
連れもカナラ含め今は適当に訓練場内を回ってる。
というか。
「ぬぅあはは! どこもかしも小童だらけがや! 姉御! こかぁ奇怪な場所だがや!」
「わかったからあんまし大きな声出さんといて。そんなんやから自分よぅ耳壊すんよ。小さい子ぉもおるし。少しは気ぃ遣ったって」
「お、おう……。すまん……」
「あはは! めずちゃのがおっきいのにおこられた!」
「よちよーち。ぼくがなぐさめてあげるねー」
「慰めなんぞいらんがや! 童は元気に走り回っとりゃええが! おらぁ!!!」
「きゃー♪」
「だから声……。もう……」
メズまで呼び寄せて子供の相手させてるくらいだわ。
初めて会ったときはいきなり襲ってきたから野蛮人かと思ったが、子供にはやたら優しいな。好かれてるし。
それと今のカナラの話し方で気づいたけど、メズに対してはちょっと語気強いよな。やっぱ妹分にはちょっとキツくなるんだろうか。
「聞いてるかい?」
「聞いてますよー」
「そう? 余所見してるように見えたけど」
脳の処理能力的に余所見してようが片手間に会話くらいできるんですよね。人間やめてるんで。
「まぁ良いか。僕はね。君にお礼が言いたかったんだよ」
「お礼?」
「ジュリのことは幼い頃から知っててね。あの子は小さい頃から真面目で、マナの量も人域魔法師と遜色がなく、才能に恵まれている……と、言われてたんだけど」
おっと。急に昔話が始まった。
悪いけど俺あいつにそこまで興味ないから正直ダルいッス。
「どうにも人域魔法が使えなくてね。宝の持ち腐れと揶揄されていたんだ。でも彼女は召喚魔法師として才能を花開かせた。すぐに炉他の兄弟や周りの魔法師達よりも実力をつけたもんだよ」
だから興味が以下略。
「きっと、紅緒ちゃんに続いて彼女が召喚魔法師のイメージを覆して、将来は召喚魔法師を引っ張っていくリーダーになると思ったものさ!」
「……」
以下略。
「でもある時。その彼女が異界の生物に侵食を受けて心身共に危ない状態になったのを聞いたんだ……」
「あぁ……」
それは知ってる。身体中から大量に出血したからな。忘れるわけがない。
出血したのは俺だけど。
「それを君が助けてくれたんだろう?」
「助けたって言うか……成り行きっていうか……気まぐれで。つか気づいたのもジュリアナの契約者しばき殺したのもリリンだし俺は別に」
「助けてくれたのは事実だろう?」
「結果から見ればそうなる……かも」
「ならお礼を言わせてほしいな」
朗らかな話し方。優しい声。だけど有無を言わさない圧を感じる。
はぁ……。まったく。
「どうぞお好きに。礼を言われようが言われまいがもう大分前のことだし。正直俺はどうでも良い事柄だし」
「あっはっは。ドライだねぇ。そんな君はきっと言葉以外のお礼が良いかと思ってね。興味を持ちそうな話を持ってきた」
「へー。どんな話なんですかー。僕とっても気になりますー」
「――」
「……っ」
最初は期待していなかったけれど、フランク・ブルーノが用意してきたお礼を聞いて、パニックに……なった。
本当に頭の中が真っ白になるのは今の俺になってからは初めてだ。
呼吸を忘れて、動悸が増して、そんな普通の感覚が懐かしくも感じて。
改めてその感覚なんぞどうでも良いと捨て置いて、俺はフランク・ブルーノの話に聞き入った。
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