第201話

「おっそーい! 遅い遅い遅いおっそーい! ぬぅあんでもっと早く来なかった!? 主人公気取りかテメェ!? 主役は遅れて来るってか!? 調子乗んなよバカ野郎!」

「……助けてやったのにその言い草かテメェ」

 後悔だわ後悔。大後悔。真面目にテメェは一度痛い目にあってこい。

「そもそもさっちゃんがどっか行かなきゃ良い話だろう???」

「そもそもお前が煽らなきゃ良い話だし。なんならこいつらが絡んでこなきゃ良い話だろ」

「これはそういう生き物なんだからもう仕方ねぇんだよ。呼吸するように腰振って生きてんだよ」

 じゃあお前のその口も自然現象なんだろうな。駆逐してやろうか。

「てか、なんで魔法使わなかったんだ? 使えば一般人に好きなようにされることはないだろ?」

「加減。苦手。下手すら。殺す」

 あ、そうですか。ハウラウランにマナを送るのは慣れてきたように見えるが、人域魔法の場合もっと細かい制御を体を動かしながらやるもんだから。不器用なお前じゃまだ一般人に合わせたようなのは無理ってことね。納得。

「で、お前のほうは?」

「……」

「あ、やっぱ良いです」

 だから涙目でこっち見るのやめろ。その面で大体わかったし。

 多美の場合は試合だとかツッコミだとかは平気だけどこういう雰囲気は苦手っていうかビビっちまったんだろう。発汗の仕方とか筋肉の緊張の仕方も怯えてるのは裏付けてるし。

「な、なによ……」

「……なにも言ってないけど」

「……目がなんか言いたそう」

「いや別に」

 意外と可愛い一面ですねとか思ってないですよ被害妄想です。

「タミー意外とチキンなんだよ。見た目こんなんだけど心は清純的な」

「う、うっさい!」

 伊鶴が多美のビビりっぷりに裏付けをするとやはりと言うべきか逆襲に合う。

 うん。見事なローキックだ。

「あだ!? なぜそれをヤツらにやらんのか!?」

「だからうっさい!」

「げぶほ!?」

 いつもの調子でじゃれ始めて涙目からは脱したようでなにより。そのまま俺への言及はしないでくれ。

「こんの!」

「ぐほ!? ボディはいかん! ボディはあかん! 出るから! さっき食べたホタテが出るから!? ついでにイカが出る! ゲソが出る!」

 いやそこは我慢してくれよ。海は汚しちゃいけません。浜辺込みで。

「もうお前ら先に戻れよ。俺はこれ処理してから戻るから」

「けほ……。お、おう……。任せたぜ……」

 気絶してるナンパ男たちを指して言うと、腹を抱えて口を押さえて満身創痍の伊鶴が辛うじて答える。

 今回は大分激しかったようだな。そのくらい触れられたくないとこだったんだろう。ざまぁ。

「おえ……」

「いつまでえずいてんの! 行くよ!」

 多美が伊鶴を引っ張りながら戻っていく。

 さすがに人気があるところなら絡まれることはないだろ。絡まれても伊鶴がいれば注目されてナンパどころじゃないだろうしな。

「その……ありがと」

「ん? あぁ」

 去り際に振り返ることなく耳を赤くしながら礼を言われる。やっぱ実はビビりな面があるのを他人に知られるのは恥ずかしいのかね~。どうでも良いけど。

「なんだ? どうしたタミー? 顔赤くして。まさか……惚れたか? ちょれぇな」

「あぁん?」

「がひゃ!?」

 また伊鶴が懲りることなく多美をなじってシバかれてる。

 ……なんでこうあいつってあぁなんだろう。哲学。



「そろそろ出てこいよ」

 近くの茂みに声をかけると。見知った顔が現れる。

「あ、やっぱりバレてた? さっすが天良寺くん♪」

 あ~。うっとうしい。

 憐名こいつの雰囲気って男だとか女だとか関係なく苦手だ。生理的に無理。俺の体がリリンに近づくにつれて余計にそう思うようになった。マナの相性とかが悪いのかな? 理由はどうあれ嫌いだし苦手なことには代わりないけどさ。

 まぁ今はそんなことよりも、だ。

「あいつらが絡まれてるのをただ眺めてた……ってわけないよな。お前性格悪いし」

「ん~。それは信頼と受け取っていいのかな? 間違ってないけどさ」

 憐名は端末を振って動画を撮ってましたアピールをする。

 やっぱりな。そのくらいはするよなお前なら。

「二人がただ襲われてるのを眺めてるだけだったらどうしてくれようかと思ったわ」

「それはそれで楽しいかもだけど。問題のあるお客を報告するのも純粋に観光してる者の勤めかなって思ってね」

「純粋とかよく言うわ。好意で俺たちを招待したわけじゃないんだろうに」

「もちろん♪ 天良寺くんに媚びるためだよ♪」

 あっさり認めんな。少しは繕え外道。

「本当はもっと早く合流できるはずだったんだけど~。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに引き留められちゃってね。天良寺くんと遊べる時間減っちゃうな~って萎えてたんだよね」

 いっそそのまま引き留められてれば良かったのに。つか祖父母に愛されてんのかこんなんで。頭大丈夫? ボケ始まってんじゃない?

「でも。女の子を助ける天良寺くんが見れて一気にたぎって来ちゃった♪ 踏まれた感触もまだ残ってるし~。今夜はおかずに困らないよ♪」

 せめて一生口閉じててくんないかなこいつ。さもなくば理性の塊たるこの肉体を持ってしても我慢の限界が来そうだ。

「まったく……。俺のなにがそんなに良いんだか……」

「ん~。天良寺くんはもっと自覚してほしいな。自分がとっても魅力的だってね。だって。僕に本気で狙われちゃうくらいなんだから♪」

 ……最初は良い感じだったけど最後で台無しだわ。

 やっぱりこいつには黙っていてほしい。または俺に関わらないでほしい。

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