第32話

バトルパート


     リリン

      VS

    ロゥテシア



 ロゥテシアは一瞬だけ脱力した。油断ではない。元々柔軟な筋肉に脱力という+αを加えることで、振り幅を上げるためだ。これはスポーツ選手。特に格闘技ならばよく行われる事だろう。一般的な行動とも言える。ただ一つ違うのは、ロゥテシアは殺意すら。気配すら一度霧散させたのだ。これで生まれるものはなんだろう? それは油断だ。隙だ。圧倒的な圧力を放つロゥテシアの気配が一度散ってしまえば嫌でも見逃してしまう。反応してしまう。反射的に探してしまう。たとえ目の前にいたとしても。リリンも違わず、不覚にも霧散させた気配に気を取られてしまった。

(釣られたな?)

 野生動物の直感はその隙を見逃さない。ロゥテシアは力んだ。全力で。音速を軽々超え衝撃波と共に一直線にリリンへと向かう。

 反応の遅れたリリンは影での防御が間に合わない。巨大な体でも銃弾を超える速度で向かってくるのだ。普通ならば反応なんてできるわけもない。しかしロゥテシアは直感で防がれるとわかっていた。わかっていたから一つ策を挟んだ。策はハマりリリンにまず一撃加えることができたのだ。リリンは確かに戦いの天才である。だが搦め手との経験がほとんどない。それを瞬時に直感的に感じとるロゥテシアもまた。天才と言えよう。

「クハハ! やってくれる!」

 衝撃波を纏った前足で薙がれ、小さな体は吹き飛ばされる。ドレスは破れ最早原形はない。だがそこはリリン。学園の制約がない今。傷などつくはずもない。影を伸ばし左右の木を繋いで足場を作り、逆さのまま立つ。欠片も出血していない姿を目の当たりにし、狼達は遠吠えを止めた。

 彼らは思った。なぜ今の一撃で肉体が残っているのか。自分達でさえ内臓も骨も飛び散る一撃を平然と耐えているのかと。そして気づいた。わざわざ長が自分達を呼んだ理由に。敗北の予感があるからだ。もしも自分達が長の戦いを見ていなかったら。注意を受けていなかったら。その状態で長が殺されている姿を見ていたら。この小さな化物に牙を剥いていただろう。そして絶滅していただろう。狼達はやっと。ロゥテシアの心情に追いついた。この戦いは或いは、種の生存危機であると。その場にいる全ての狼達が理解した。

「クハハハハ! どうした犬畜生来ないのか? 先手を取ったのだ。今、優勢なのは貴様だろう?」

「……無傷でよく言うわ」

「クハハ。なんだ詰まらんぞ。今の一撃が渾身のモノで、それが全く通用しない程度で万策尽きたのか? そんなわけがあるまいよ。貴様がその程度の器なはずあるまいよ。もっと見せてみろ。魅せてみろ。我を楽しませろよ」

「本当に無傷でよく言う。だが強者にそこまで期待されては応えなくてはなぁ!」

 ロゥテシアは深く息を吸う。深く脱力をする。今度は気配を別の意味で散らした。霧散させて気配を辿らせないようにするものではなく。複数の殺意で持って襲いかかる。

 虚偽フェイントではない。全ての殺意は本物。全ての牙は本物。物理的事象を無視し、理をねじ曲げて幾重にも重なる牙。一瞬にて、刹那にて、ほぼではなく間違いなく同時に一つの対象を噛み穿たんとする単騎にて群れたる牙。名付けるならば、そう――残酷クルーエルなる暴動リオット

(これが正真正銘の渾身の一撃。初手で傷が負わせられないならこれしかあるまいよ! いくら丈夫でも儂の牙を重なれば貫ける!)

「クハッ。さすがにあり得んな」

 分身なんてできない。ただ単純に次元をねじ曲げて自分という存在を複数生み出した。矛盾を力業で体現した。なのに。それなのに。

「がふっ! けふけふ! がるぁ!」

(あり得ん? いや、むしろあり得んあり得ん! なんだ!? なんなんだこれは!?)

「すまんな。今のは素受けできん。だから、我も少し力を入れた」

 リリンは影でロゥテシアの全ての実体を包み込み牙が届く前に封殺した。矛盾は解け実体は失せ、残されたロゥテシアは影に捕らわれもがくことしかできない。やはり圧倒的。絶対的。なによりも絶望的。彼女に勝てる存在は本当にいるのだろうかと疑問を抱く程。強い。



(リリンちゃんもぶっ飛んだ能力だけど。あのロゥテシアも規格外。なんだよ自分を同時に同じ時間に複数存在させるなんて。次元の歪みを勘で制御コントロールするなんて! 確かに私ではまだどうしようもないくらい強い個体だ。あ~。ほしい。バラしたい。より上の次元に超越させたい)

(ま~た変なこと考えてるなこの人。突っついたら絶対矛先向いてくるだろうから無視しとくけど)

 現在。才とネスは少しばかり離れた木の枝で待機している。傍観者である二人は呑気なものである。



「グルルゥ……」

「クハハ。残念だったな。最初の不意打ちがあの威力なら、まず死ぬことはないにしても我の肉体は砕かれていただろう。初手でやっていれば貴様にも勝機はあったかもしれんなぁ」

(なるほど……。最初から最高の一撃を加えていれば……。後悔しても仕方ない。考えろ。閃け。まだ儂は負けてはいないぞ)

 ロゥテシアはもがく。もがく。もがく。だが拘束は解けない。リリンの空間を歪ませている影に捕まれば逃げる術はほとんどないだろう。

「ガル! グルァ!」

(触れてみてよくわかる。最初からあの化物から隠しきれん力の波動を感じてはいたが、能力を身に受けてよくわかる。これは固いとか柔らかいとか丈夫とか脆いとかそんな話に収まらない。ただの力の塊だ。自在に動く力そのものだ)

 ……あるとすれば。逃げる術があるとすれば。一瞬で良い。リリンのマナを超えることだ。だが、気づけるだろうか? 気づけたとしてそれができるだろうか?

(フム。少々やりすぎたか。たった二手目で決してしまった。こんなことならもう少し加減しても……ん?)

「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅう…………っ!」

 嘗めてはいけない。侮ってはいけない。なぜならこのロゥテシア。リリンに多少劣るとしても、リリンと同じく才に縁ある存在。弱いわけがない。この程度で終わるわけがない。


 ――…………………………ッ!!!!!!!


 それは先程の遠吠えの比ではなく。辺り一帯を吹き飛ばした。巨大な木々は倒れ、地面は衝撃波の跡ごとさらに抉り飛ばした。いくつもの地割れが置き最早そこは災害の後である。

(最初の霧散する気配で無理矢理油断を誘った。二手目は防ぐことはできたが気を引き締めたのにも関わらず驚かされた。三手目は切り札を使わせて策が尽きたはずだった。気は少しだけ緩んだが、油断などせず押さえ込んでいた。なのにどうだ?)

「ふぅ……。肺を少し圧迫されていたが、抜け出す程度の隙はできたし。良しとするか」

(あの犬畜生は今、我の影から逃れている)

 ロゥテシアはまず吠えることでリリンにダメージを与えた。それによりリリンは反射的に大量のマナを回復機能に回すことになる。その間にロゥテシアは全身からマナを放ち無理矢理影を押し退け拘束から逃げたのだ。

 マナの存在を正確に把握できてるわけではない。直感とその場の閃きのみでロゥテシアはリリンに一杯食わせたのだ。

「……っ? ……っ!」

(クソ。耳が聞こえん! マナを込めて吠えおったな。鼓膜と三半規管と脳の半分を破損させられた。影でなんとか無理矢理体を立たせているが、他の臓器も軒並み破裂している。鼓膜はともかく脳がやられては内臓の回復が遅れる。これはさすがに不味いな。不味いぞ。……だが)

「クハ……ッ!」

 血反吐を吐きながら満面の笑みを浮かべ、心臓はダメージと興奮で不規則なリズムを刻む。

(それで良い。苦戦するくらいが丁度良い。しかも我は今ほとんど縛りがない。能力の範囲くらいか? この程度の縛りでの苦戦だぞ? たまらん。たまらんなぁ。楽しくて楽しくて興奮してしまうなぁ!!!)



「うっはー! 坊や坊や! この戦いは凄いね! 序盤から飛ばしすぎだよなんだよこの超展開!」

「わ、わかりましたから! 離してもらえませんかね!? 良い年こいて興奮しやがんなって!」

 一時的にゲートを開き退避してから戻ってきたネスと才。お陰で無事だったが、ネスは逃げた後も視ていたので何が起きたかはわかっている。リリンがダメージを負ったのも視ているので興奮が止まらない。才に至っては訳がわからなさすぎて半分思考停止である。残された狼達だが、危険を察知して逃げたのにも関わらずほぼ全てが失神してしまっている。

 これ程の被害を出してもまだのびしろのあるロゥテシア。の存在は今、リリンの好敵手といって差し支えないだろう。制約のあったアグニとの戦いを除き、ここまで全盛期のリリンにダメージを与えた存在はいなかったのだから。



(フム。苦戦は望むところだがこのままでは戦いにならん。とりあえず回復せねば)

 リリンは広範囲に影を展開しつつ。ロゥテシアに向かわせる。だがロゥテシアには掠りもしない。影の波が押し寄せようとも強靭な身体能力で軽々かわしていく。

(視覚情報がグチャグチャなせいで姿を追いきれん。ただの物理的ダメージだけだったら既に回復は終わっているだろうが。やはりマナでもダメージは一筋縄ではいかんか)

「ム?」

 ロゥテシアは今の一瞬のリリンの思考の遅れを見逃さなかった。影から逃げつつ隙間を縫ってリリンに牙を剥く。

(何故かはわからんが注意が散漫だ。思いの外、傷は深いようだな。ならばこれは好機。その傷が影響を及ぼしている間に仕留めさせてもらう……!)

「ガルゥ……ッ! グルァァァァァア!!!」

 再びロゥテシアは群れと化し襲いかかる。リリンは影で全身を纏うが高密度のマナを帯びたロゥテシアの牙は影を貫きリリンの肉を食い千切っていく。

「グフッ」

 辛うじて腕や足などへの被害で食い止めていたが、一発だけ腹部を抉った。血液が体力に流れさらにあらゆる肉体の器官は動きを止め始めた。

(この程度で死なぬが本当に不味いな。クソ。やりたくはなかったが……)



「ハ、ハハハ。嘘だろ……。ぼ、坊やにも見えたかい? 信じられるかい? まさかあのリリンちゃんが」

「……っ。み、見えてますよ。言われなくなって」

(見たくはなかったけどな。戦いの全貌が掴めない俺にだってあいつがなにをしたかわかったよ。あいつは今……逃げたんだ)



 リリンは影を先へ伸ばし体を滑らし、或いは引っ張ってロゥテシアから距離を取る。リリンは今、生涯で初めて敵へ背を向け逃げている。

(クハハ! これが恥を感じるというやつかな? 構わん! この戦いが続けられるならば。まだ楽しめるならば我は恥をかきながらも逃げてやるわ)

「逃がさんぞ!」

(今のでハッキリした! あの化物は自分でも予想外に深い傷を負った! 深い傷のようではなく深い傷を負った! さらには追撃も成功し上乗せできた! ならばここで取る! ここで貴様の命を狩り取る!)

 ロゥテシアはなりふりかまわず超音速で追いかける。周りは先程の方向で荒れ果てているが、更なる天災となりて群れの驚異を討たんと突進する。リリンはなんとか影を都度展開し防いでいるが、反撃に出ることはできない。

(触れたタイミングで縛り上げようにも回復分のマナを使わなければ抑えきれん。耐えろ。耐えろ。今は耐えろ。クハ。我が耐える……か。待つことはあっても耐えるというのは初めてかもしれんなぁ。……いや、才のヤツに触れているときは声を出さんように耐えていることはあるか。触れるだけでも気持ちが良いからなぁあいつ)

「っと」

(いかんいかん。今は余計な事を考えていたら肉体が消し飛びかねん。だが、無駄な思考を挟める程には脳と血液はほとんどもどったな。これならば)

 いつの間にか荒れていない森まで来ていた。リリンは影を使い木の側面に張りついた。ロゥテシアは危険を察知し軌道を変え別の木に張りつく。

「フム。流石に気づくか」

「儂の勘の前には下手な小細工は通用せんぞ」

 リリンが行おうとしたのは、超音速のまま突っ込んでくるロゥテシアを細く。細く。見えぬ程に細く張り巡らした影で動きを止め、そのまま肉体全てを影で飲んでしまうというもの。

(先の失敗はただ捕らえただけだったこと。頭も肺も残していたから咆哮を許した。全身を影で埋め尽くせばあとはマナのみで拘束を解かねばならん。だが不可能だ。この犬畜生のマナの総量も最大密度も我には遠く及ばん。だから捕らえさえすれば良い……のだがな)

 脳の破損は完全に修復し血液も戻り思考速度は戻った。が、内臓各部へのダメージが深くまだ影を広く展開できない。本気を出せば星を埋め尽くす事ができるリリンだが、それはマナが全開であること。そしてダメージが0という。つまりは完全な全力状態が必須。広範囲の影も制御を間違えば才達を巻き込み兼ねない。故にリリンは広範囲の影を使えない。多少広かろうとロゥテシアならばかわしてしまう。八方塞がりである。

(さてさて。どうしたものか)



 リリンが思案を巡らしている頃。置いていかれた才とネスは追いかけず、その場に待機していた。才はまずただの人間と遜色ない身体能力の為追いかけても無意味なわけだが、ネスは遠くの様子も視えるので移動の必要がないのである。

「坊や坊や。リリンちゃん少し回復したみたい。さっき逃げたのは回復の為だったようだよ」

「そ、そっすか」

 一安心する才。ただ闇雲に逃げたのではなく目的があっての戦略的な一時的撤退だったことに安堵した。才にとっては力の象徴であるリリンが逃げるなんていうのは耐え難いものなのだ。

「それともう一つ面白い事があったよ」

「面白いことって……なんすか?」

「ロゥテシアの肉体の構造だよ。今木に張りついているんだけど、それでわかった。ロゥテシアの骨格は犬や狼のものじゃない。片爪を木にめり込ませながら振り向くなんていうのは犬の関節では少し無理があるからね。できないことはないと思うけど。それに時折見せた体の柔軟性や動きも猫科に近いものだったよ。だからたぶん狼の頭にライオンの体でもくっついてると思えば良いかもね」

(よく見てんなぁ。さすが気持ち悪い生物の専門家)

「私の専門は魔法全般だよ」

「……!?」

(……心、読まれた? いやそんなまさか……な)

 ネスはその思考には答えず改めてリリン達の戦いの観察に戻る。彼女に読心の術があるかは今は誰にもわからない。



(追い詰めきれん……。どうあっても追い詰めきれん。あれ程までに強い化物が逃げるくらいには傷を負わせたのに。既にヤツは回復しつつある……いや、これはもう……)

(回復したぞ……!)

 リリンの影がロゥテシアを牽制し、ロゥテシアは何度も牙や爪を立てるが全て影が防ぎきった。これよりは攻勢に出たいところではあるが。

(回復はしたが決め手が今のところないな。血を流し過ぎてマナも少々漏洩してしまっている)

 体液に溶け込みやすく、またラビリンスと血管は複雑に絡み合っている為、その性質上流血はそのままマナの消費に繋がる。如何に莫大なマナを保有していたとしてもリリンは傷を負いすぎてしまっているのだ。

(最早町単位での広範囲な展開は無理か。とは言え、次の一手で決めなくては向こうの一撃を受ける事になるか。そうなればしばらく我も動けなくなりそうだ。フム。骨だな。未だまともにダメージを与えられてないのはキツい。まだ余力がありそうだ)

 否、リリンの見立ては外れている。自分よりも上位の存在、さらに捕まれば終わりという戦いにおいて無傷でやり過ごすのにどれだけの集中力。精神力が必要か。付け加えると隙を見つけ、作り出し攻勢に出ていた。捕まれば終わりなのに近づかなくては勝てない。その都度ロゥテシアは決死の覚悟を決めなくてはならない。摩耗しない筈がない。どんな生物も強者に、恐怖に立ち向かう事で心が擦れない訳がない。

「グルゥ……」

(表に出すな。冷静に。余裕を持っている風に装え。唸って紛らせろ。精神的優位だけは譲るな。でなければもう儂に勝機はない)

(気配が尖っている。隙を窺っているな。……フム。だがこれはむしろ……やってみる価値がありそうだな)

「……っ!」

 リリンは影を使いロゥテシアが張りついている木をへし折る。ロゥテシアは足場を変える為に別の木へ跳び移る。リリンもロゥテシアとの距離を詰めようと前傾になり足に力を入れた。その瞬間。ガクンと膝が笑った。笑ってしまった。

「し……ま……っ!」

(好機! 体勢が崩れた! 気配が霧散した! 意識は緩慢! 傷は治っても血が戻っていない! 体を動かせないのだ! これで終われる! 貴様を殺して森は平穏を取り戻す!)

 ロゥテシアは何度目かの矛盾を発生させた。群れと化しリリンに襲いかかる。

「クッハ!」

 リリンは両足を太股から落とし、左腕も無くしてしまった。残ったのは美しい髪と顔。所々抉れた胴体。そして右腕。

(やった! やったやった! 勝った! 勝ったよ! 勝ったよ皆! 儂ぁちゃんと長として皆を守れ――)

「クハハハハハハ! 捕まえたぞ犬畜生」

「な、に!?」

 心の声が素になってしまったロゥテシアの口をリリンが残った右腕で掴んだ。まだ、彼女には意識が残っている。いや、それ以前に不可解な事があるはずなのだ。何故リリンの片腕と胴体。さらには頭部まで残っているのか。巨大な体が複数で小さな肉体を食い千切ったはずなのに。

(何故!? どうして!? 傷は治ったのは気づいていた。だがもう動くための血液も力も残されていなかったんじゃないのか!? でなければ体勢が崩れるはず)

「クハハハ。不思議だろう不思議だろう。だがその疑問は貴様ならばすぐに見つけられるはずよなぁ? 貴様はとても聡明なのだから」

「………………!」

 リリンの影がロゥテシアを包み込んだ。肺は圧迫され呼吸は最低限しかできない。よって、もう咆哮は封じられた。全身を包まれたらマナで押し返して隙間を作ろうにも巨体が抜けられる余裕は生まれないだろう。影はさらにロゥテシアを徐々に圧し潰し意識を奪っていく。意識が失われる刹那。ロゥテシアは答えに至る。

(意図的に意識を散らしたのか!? 儂のように! 一度見ただけで真似たのか!? そして致命傷だけは負わないように、捕らえるのに必要な部位だけ残してわざと食わせたのか!? 力だけではなかった! この化物は儂同様勘も知能もあった! これでは始めから勝機なんて欠片……も…………な………………)

「フム。閉じたか」

 ロゥテシアは視覚としても意識としても深い闇に落ちていく。

「クハハ。楽しめたぞ犬畜生。そして貴様のお陰で我の手札も増えた。気配を偽るのは意外と使えるな。使う機会がこの先訪れるかは疑問ではあるが。ま、その辺りは追々考えるとしよう。今は回復に専念せんとな。折角治したのにすぐにまたグチャグチャにされてしまったし。ま、半分は自分からだが」

 リリンは影を使い肉片を回収し治癒に入る。戦いの余韻に酔いしれているのか、治癒の間常に満足そうな顔を浮かべながら。

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