19頁目 鉄火竜と雷魔法
私達の目の前で
「何でコイツがここにいるんだよ! コイツの
「いるのだから仕方ありません。で? 私を
「わ、分かった! い、いち、キユ……だな? 雇う! だ、だから、助けてくれ」
「大丈夫ですよ。鉄火竜の狙いは馬車の積み荷です。アレにはルックカからの鉱石が積んであるんですよね?」
「あ、あぁ、そうだ」
「分かりました。では、これ持っていて下さい……持ち逃げしないで下さないね」
リュックサックを降ろし戦闘開始。私の雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、鉄火竜は
私はまず
「鉄火竜の狙いは、あくまで馬車の積み荷で、それを邪魔する者は排除しようということです。ですから最悪積み荷を捨てて逃げることを
そう言葉を続けながら、次の魔法を発動する。鉄火竜の周囲に雷が
「護衛さん達は、もしもの時があれば、商人さん達を誘導して避難して下さいね」
護衛の冒険者達に指示を出しながら、矢を
刺さることはなく、あくまで先端が接触しただけだ。しかしその瞬間、周囲を囲っていた雷の
「それと、あなた達は別に雇われている訳ではありませんから、逃げても大丈夫ですよ。もし手伝う気があるのでしたら、邪魔にならないようにお願いします」
落雷による爆音の中、先程まで自身をナンパしてきていた男性五人組冒険者に向かって忠告するが、視線は鉄火竜に固定されたままで動く様子はない。
商隊は守るが、あなた方も守るつもりはないので自衛はして欲しい。
今の頭部集中落雷によって、一時的に意識を飛ばしたようだがそれも一瞬に過ぎなく、すぐに体勢を整えて私を
「今更遅いよ」
雷魔法を自身に付与し、一時的に脚力を増強する。
脳から身体各部への伝達信号は、神経に乗って行われる。この信号は電気信号であるので、雷魔法を応用して、一時的に脳の伝達情報を雷魔法によって
地を蹴り、わずかな間に鉄火竜の左側側面へと回り込む。
同時に矢を三本、空に向かって撃ち出した。そして今度は雷魔法を地面に走らせて、鉄火竜を中心に魔法陣を
一瞬私の姿を見失っていた相手は、すぐにこちらに頭を向け、口を開けて炎を吐き出そうとしたその時、空から落ちてきた矢が、
「
本来自然で発生する雷は、空から地面へと落ちてくるもの。それを魔法陣で反転し、逆に雷を空へと撃ち出す陣を描いたのだ。その衝撃で後方へと十数ファルト飛ばされ、再び地面へと倒れる。
しかしタフだ。これだけ攻撃を仕掛けているのに、相手には傷らしい傷を負わせることが出来ていない。
矢の数は有限だし、出来れば
この世界の考え方では魔法の発展に限界があるが、前世で漫画やアニメ、ゲームを通して、様々な応用や技を見てきた私は、まだまだ魔法は伸びると確信している。
「それじゃあ、まだまだ行くよ」
細々と雷を放ちながら移動し、観察する。
大型怪物に分類されるが、その中でも
ただ堅いだけなら衝撃で
その硬さは鱗だけじゃなく、鉱石を食べるだけあってアゴの力、そして歯の硬さも異常である。噛み付き攻撃をしてきた例は聞いたことがないが、警戒しておくに越したことはない。
そもそも接近戦の武器の
鉱石を食べ、その成分を鎧のような鱗に反映させるので全身を鎧で
飛び上がりと飛行の加速も
目の前の個体の全身は赤っぽい
このガッチガチの硬さから、どのように加工したら頑丈さを維持しつつもこんなに軽く柔らかいコートへと作り替えることが出来るのか、本当に熟練の
鎧のような鱗は所々でトゲになっており、体当たりの際には多大な被害をもたらすことが出来る。転がった際のスパイク代わりとして
というかサイである。もちろんサイとは似ても似つかない。前足はなく自身の全高を超える程の大きな羽や、身体の半分はある長く大きな尻尾がそうだ。しかし特徴や部位を見ていくと、サイを連想させるような部分があるというだけだ。
首は短く全体的にずんぐりとした体格だったり、鉱石を食べる為に進化した口は岩を削り取って食べられるように平べったくなっていたり、鼻の上の角であったりと進化の過程などは全く違うが、似たような方向性で進化していることを考えれば似ていると言えば似ている……と言えるのかもしれない。
非常に高い防御力のおかげで、
また火山地帯で過ごすことが多いことから、熱を体内に溜め込むことが出来るように進化しており、その熱を放出する時には、口から炎を吐くが、幼い個体は失敗することがあり、口元で爆発を起こすこともあるらしい。ただ顔周りが特に頑丈なので大したダメージは受けず、そこからまともに炎を吐けるように練習をするのだという。
「
「重いっ」
魔法で操っているだけなのだが、まるで自分で綱引きをしているような重みを感じた。
「
今度は雷を手から撃ち出して、倒れた鉄火竜の頭部へぶつける。
ずっとこの繰り返しだ。相手の行動を制限しつつ、頭部へのダメージを
狙いは、相手の脳や神経を焼き切ることだ。外傷による
当然、他にも攻略の手段はある。
ただ単純に防御の上から叩ける攻撃力があれば、それを大いに振るえば良い。砕くのではなく
射撃にしても、今私が背負っているライフルを使用すれば、貫通させることは出来るかもしれない。その穴目掛けて雷魔法を放てば、確実に弱らせることが出来ると思う。それをしないのは、弾が
魔法も私のような雷魔法は特に攻撃力が高いはずなのだが、今回の鉄火竜にはあまり効いていない。
相手は、元々火山などに住む怪物である為、耐火性、耐熱性は抜群だが耐雷性もあるのだろうか。多少痺れはするものの、少し時間をおけば復活し、何事もないかのように動いている。仮に耐性があったとしてもこれだけ攻撃を繰り返せば、電熱により多少の
最初に地面を爆発させた時も、あの巨体をわずかながら浮かせる程の威力を発揮したにも関わらず、足を負傷させることすらも出来ていない。実際に防具として活用しているので知ってはいるが、やはりその非常に高い物理耐性も
当初の目標では一刻以内としたが、この調子ではどれだけ時間を掛けても倒せない可能性がある。相手の動きは遅いので、こちらが攻撃を受けることはほぼない。そもそも攻撃する
いっそのこと討伐ではなく撃退に目標を変更してみるかと考えるも、餌が目の前にあり、私という障害を排除出来れば食べ物にありつけるという状態で、果たして逃げることを選択してくれるだろうか。
となると、やはり討伐しかない。本来なら他の冒険者にも協力を
ナンパ組は、そもそも雇われている訳じゃないので論外。というか
「さて、考えるか」
これまでの戦闘から、遠距離による足止めと、一時的な行動不能は実現出来ている。しかし、決定打がなくズルズルと長引いている。
「ゼロ距離で高威力の魔法を撃てば、耐熱性を貫通出来るのでは」
実に脳筋的な発想であることは自覚しているが、遠距離戦で
「狙いは頭部。一気に決めるよ」
そう呟いてから弓をしまう。そして右手を開いた状態で突き出し、手の平の上に球状の雷を発生させる。邪魔にならないようコートは腕まくりしておく。
「
左手では、無詠唱による牽制の魔法を放ちつつ、右手の雷玉は、圧縮されて小さくなった上にまた玉を覆うように新たな雷が生成され、それごと圧縮されてから、また生成するをひたすら繰り返す。
「こんな感じかな」
それは、今にも爆発しそうな程、激しくバチバチと鳴る雷の
先程の身体強化の
「
鉄火竜が反応することが出来ない速度で、左から一気に距離を詰めて、その勢いを保ったまま右手を頭部に押し付けた。まるで
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