落ちこぼれ魔法使いは召喚した最強ドラゴンに愛される~お姉さんドラゴンと巡る伝説?の旅~
高井うしお@新刊復讐の狼姫、後宮を駆ける
プロローグ
『母さんが死んだら、あなたはひとりぼっちになってしまうわね……』
母さん、行かないで。僕はそのかさかさした手を握りしめた。どんどん体温を失っていくその手を。母さん、母さん。母さんがいないと僕は――
「……夢か」
頬を伝う涙の冷たさで目を覚ます。久々に母さんの夢を見た気がする。
「フィル、とっとと起きなよ」
余韻に浸る間もなく、二段ベッドの上から同級生のサイラスがひらりと飛び降りて、僕のベッドを蹴飛ばした。
「遅刻は連帯責任だぞ」
「うん、ごめん」
僕はようやっと着替え始めた。カーテンをそっとめくって、窓の外を見る。
「晴れたかぁ……」
秋晴れが空は高く青く広がっている。それは僕にとって残酷な一日のはじまりを意味していた。
ここはグレナストゥ魔法学園。やがて魔法使いになる少年少女が集う学園である。
「ああ、寒くなってきたなぁ……」
僕は上着を急いで羽織った。深い青の上着はこの学園の生徒である証。つらい事多いけど、これは気に入っている。ところで、僕がなんでこんなに重苦しい気持ちでいるかというと、今日は重大なテストがあるからだ。
「……下手をすれば、退学だなんて……どうしよう」
僕の魔法の成績はさんざんだ。なにしろ僕の手にかかると魔方陣は歪むし詠唱は調子はずれだし平気で魔法の属性を間違える。そんな僕に先週担任のクリス先生はこう言ったのだ。
「フィル、次の召喚魔法の実習テストで召喚獣が出せなければ君は学校をクビだ」
ああ、どうしよう。自信なんてない。僕がまた頭を抱えていると、サイラスがイラついた声で僕に声をかけた。
「フィル、朝食に遅れる! まったく愚図なんだから」
「ごめん」
僕達は急いで食堂へと向かった。
「はい、おはよう」
僕の前にスープとパンが突き出される。僕はそれを受け取って、いつもの隅の席に座った。この学園は大体三種類の生徒で別れている。一つは貴族や金持ちの生徒、そして普通の平民の生徒、それから魔法の才能を見いだされて入学した奨学生だ。
ぼくは奨学生……のはずなのだが、成績が悪いのでどこのグループにも入れないでいた。せいぜい同室のサイラスがたまに声をかけてくれるくらいで。
「育ち盛りにはちょっと足りないんだよねぇ」
僕は具の少ないスープをスプーンですくいあげた。他の生徒は追加でチーズや果物を用意しているが、親もいない僕にはそんなお金はなかった。三食こんな感じだから僕はいつもお腹を空かしている。
「まぁ、ないよりましか」
この国で親のない子はとても暮らせたものではない。僕は母さんが亡くなってから遠縁の家に引き取られたけど朝から晩まで下働きをさせられて食事ももっとちょっぴりだった。
だから、10歳の時教会で魔法使いの適正があると言われた時は、飛び上がるようにうれしかったのだ。魔法を使えるものは貧しい者でも国の方針で魔法学校になら入る事ができる。そしてきちんと卒業すれば色んな職に就くことができるのだ。
「どこに行っちゃったんだろうな、僕の才能」
僕は自嘲気味に呟いた。実際は奨学生のくせに成績が悪すぎて居場所がないんだけど。僕はあっというまに無くなってしまった朝食のトレイを片付けて、授業に向かった。
「それでは皆、一人ずつこの中央の魔方陣に手を置いて召還の詠唱を行う事。いいか」
ここは学園の中庭。クリス先生は石版に書いた召還の魔方陣を中央に置き、僕等を見渡した。僕は緊張してごくりと生唾を飲んだ。これが出来なければ退学……って事はいまさら親戚のとこには戻れないし、野っ原に放り出されるのも同然だ。
「それじゃお先に!」
同室のサイラスがまず真っ先に飛び出した。そして魔方陣に手を置き、召還の呪文を唱えた。
「霊よ、神の名において我に従う魔獣を召還する。我の求めに答えよ」
すると魔方陣が明るく輝き、次の瞬間そこには宝石のような目をした猫がいた。
「ケットシーだ!」
サイラスの召還は成功した。僕はうらやましそう肩にケットシーを乗せたサイラスを見ていた。
「よお、フィル。お前には無理だろうな」
といってサイラスは僕を覗きこんだ。僕はきゅっと唇を噛みしめる。その後も次々と同級生達が召喚獣を召喚するのを僕は見ていた。心臓のドキドキが止まらない。
「次! フィル! 前に出なさい」
とうとう僕の番がやってきた。僕はおずおずと召喚陣の前に立った。
「それでは手を置いて召喚の呪文を唱えなさい」
「は、はい。霊を神の名において……」
すると呪文を言い終わらないうちに魔方陣が輝き始めた。失敗か!? 僕は恐ろしくなってぎゅっと目を瞑った。
「……フィル!」
先生の焦った声で僕はハッとなって目を開けた。すると石版ごとミシミシと音を立てて召還陣が悲鳴をあげたので慌てて手を離した。すると中庭はシーンと静まり返った。
「やっぱり失敗したな!」
サイラスが僕を嘲り笑った瞬間、石版がはじけとんだ。飛んできた石つぶてに先生もサイラスも悲鳴をあげた。そして魔方陣のあった地面が明るく、そして大きく輝く。目が痛くなるくらい明るくなって僕は両手で目をふさいだ。
「フィル! 逃げろ」
クリス先生の声に慌てて目を明けると……そこには。
「嘘……」
――巨大なドラゴンが黒い翼を広げて僕の前に立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます