Mission11 プロジェクト・イーカロス

ドラゴンヘッド / メテオリス 不問

アルベルト・アイブリンガー / オール・アニマル 男

イーカロス = マナ・フロアー / 不問

プロフェッサー・ヤン / 不問



[アルベルト・アイブリンガー]

着きました。この先が旧浄水きゅうじょうすいチェンバー区画です。


[ドラゴンヘッド]

さっきの壁の残骸といい、随分とこの辺りに詳しいな。


ひょっとしてこの胡散臭い建物も、

お前たちスターストレングス社が作ったんじゃないか。


[アルベルト・アイブリンガー]

ええ、そうです。


デルソルへのMAエムエー基本技術提供きほんぎじゅつていきょうならびに

旧浄水チェンバー区画におけるニューロレセプター導入には

弊社が全面的なバックアップを行いました。


放棄されていた当施設を地下基地に活用するよう推奨したのも我々です。


[ドラゴンヘッド]

ほう。それで、デルソルの後ろ盾をやっているお前らが

どうしてこんなところに呼びつけたんだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

お呼び立てしたのはお前ら、ではなくお前、もとい手前めです。


[ドラゴンヘッド]

知ったことか。

このドブ川をメテオリスの墓標ぼひょうにしてくれるというのならば願い下げだ。

お望みとあればどこでだってやってやる。


[アルベルト・アイブリンガー]

そう噛みつかないでください。

先日の合同任務の時はああするしかなかったのですよ。

手前めの発言は、スターストレングス社にも

デルソルのA.I.にも監視されています。


あなた方と私がいがみあっていたほうが

何かと都合が良かったのです。


[ドラゴンヘッド]

ああするしかなかった、だと?


もし貴様らが余計な隠し立てをしなければ

我が社への被害を最小限に抑えられたかもしれん。


失わずに済んだ物、死なずで済んだ者がどれほどあったか。

貴様、自分の言動がわかっているのか?


[アルベルト・アイブリンガー]

弊社は御社にデルソルによる同時襲撃が

計画されていることをお伝えしていましたよ。


反応から伺いますと、御社の関係者は

すでにご存知の様子でした。


おそらくは、握りつぶされたのではないかと。


[ドラゴンヘッド]

上の連中は全て知っていた。


知っていて泳がせた。


バカも休み休み言えッ!

そんな荒唐無稽こうとうむけいな陰謀論を誰が信じる。


[アルベルト・アイブリンガー]

そんな荒唐無稽な陰謀論を信じているから、

今日は来てくださったのでしょう。


あなたが心底嫌悪する、手前めの誘いに乗って。


[ドラゴンヘッド]

……そうだな。

その結果によっては、このドブ川が貴様の墓場になる。


[アルベルト・アイブリンガー]

決断はあなたに委ねます。


着きました。

ここが、遠隔ニューロレセプター実験室。

通称マナ・フロアーです。


[マナ・フロアー]

まことたる愚者は壁を砕き

深淵へ続く底へとたどり着く。

ようこそ、マナ・フロアーへ。


[ドラゴンヘッド]

この声、この前のA.I.と同じものか?


発光する床に喋る部屋。

それから、あそこで朽ちているのは……FAか。


あの機体、昔どこかで見た覚えがある。


[アルベルト・アイブリンガー]

以前弊社に所属していたFAパイロットです。

彼には、アリーナで広報役として働いていただいておりました。


退社後は、私費で傭兵を雇い入れ

ここに潜入し、マナ・フロアーを破壊しようとした記録があります。


[ドラゴンヘッド]

そうだ、思い出した。Cクラスのチャンプだった男だ。


新興宗教から市民の娯楽まで

貴様らの会社スターストレングスが食い込んでいないところを探す方が難しいようだな。


[アルベルト・アイブリンガー]

それはあなたの会社にも言えることでしょう。


今のFA業界は、スターストレングス社とセントラルレッド社による

談合とマッチポンプの積み重ねです。

極論すれば、二社が需要を作り、二社が供給する。それだけです。


[ドラゴンヘッド]

元、とは言え自分の部下の残骸を見て

淡々と経営の話ができる奴はいうことが違う。


もういいよ、腹がいっぱいだ。

続けてくれ。


[アルベルト・アイブリンガー]

スターストレングス社所属

アルベルト・アイブリンガーI.D.アイディ認証。


ディープ・リンガル・コマンド入力。

プロフェット・マスク解除。


イーカロス、通常モードで再起動してください。


[イーカロス]

イーカロス、再起動を完了。


おはようございます、ミスターアイブリンガー。


そちらは、セントラルレッド社所属の

ドラゴンヘッド様ですね。

先日は上空から失礼いたしました。


[ドラゴンヘッド]

なんだ、A.I.エーアイ

人間らしい喋り方もできるじゃないか。


[イーカロス]

これが私本来の喋り方です。


A.I.であることを第三者に看破されないよう

あのような台詞回しをするように指示されています。


まあ……個人的には、古めかしくて

格式があって、結構好きなんですけどね!


それでは改めまして、宜しくお願いいたします。


[ドラゴンヘッド]

お前と……お前らと宜しくやるつもりは毛頭ない。


これまでも、これからも、だ。


[イーカロス]

あ、そうですか?

それは、とても残念です。


ドラゴンヘッド様の直情的な言動は非常に興味深く

今後のラーニングにおける重要なモデルとして

採用したいと考えていたのですが。


もしお心変わりがありましたら、懇意にしていただきたいです!


[アルベルト・アイブリンガー]

イーカロス、プロフェッサー・ヤンと

通信を繋いでくださいませんか。


[イーカロス]

えっ、教授とですか?


はあ……。その、なんと言いましょうか。


技術的には可能なのですが、私の権限では

勝手に繋ぐとかそこらへんの裁量さいりょうは……そのですね。


[アルベルト・アイブリンガー]

無理難題は承知しております。


ですが、手前めはそのためにここに来たのです。


[ドラゴンヘッド]

……ヤンだと?ヤンと連絡が取れるのか貴様。

さっさと繋げ。


繋げッ!早くしろ!


[イーカロス]

ひッ!そんなに大きな声を出さないでください……。

驚いてしまいます。


わかりました、わかりましたよ……。

もし、あとで叱られたら庇ってくださいね?


では、通信を接続します。


[プロフェッサー・ヤン]

なんだ、君か……後にしてくれないかね。


今、本当に大事な、いいところなんだ。


もう少しでこの仮説が証明できるかもしれない。


[アルベルト・アイブリンガー]

そう言わず、ちょっとだけお付き合いいただけませんかね。

プロフェッサー・ヤン。


[ドラゴンヘッド]

おいヤンッ!聞いてるか?
貴様、よくも裏切ってくれたな!


お前のおかげでこっちはもう、泥沼だ。


いますぐにでも血祭りにあげてやりたいところだよ。


[アルベルト・アイブリンガー]

おおっと……まあいい。待ちましょう。


[イーカロス]

ど、ど、ドラゴンヘッド様、ちょっと落ち着いてください。

スピーカーが割れそうです。比喩ではなく……。


[プロフェッサー・ヤン]

この頭の悪そうな声は……君か、ドラゴンヘッド。


イーカロス……勝手に取り次ぐにしても相手を選んでくれ。

私は馬鹿と話す時間がこの世で最も無駄なものの一つだと思っているんだ。


それで、君は何をそんなに怒っているのだね。


家のトイレでも詰まったかね?


[ドラゴンヘッド]

排管どころか頭の血管まで詰まってブチ切れそうだよ。

ヤン、貴様なぜ梯子はしごを外した。答えろ!


[プロフェッサー・ヤン]

梯子を外した?何を寝ぼけたことを言うのかね。

デルソルを使って全ての後始末を希望したのは

他ならぬ君……いや君達じゃないか。

それを言うに事欠いて梯子を外しただなんて、心外だよ。


[ドラゴンヘッド]

あの夜の襲撃は自演だとしても

貴様らは追撃するように我が社を襲撃した。


そんな話は知らされてないぞ。


[プロフェッサー・ヤン]

は〜ァ……もう本ッ当にうるさいな君は。


知らせているよ、事前通達してある。それも書面にしてだ。

隣にいるスターストレングス社のジェネラルマネージャーにもだ。


知らないのはドラゴンヘッド、君だけだよ。


イーカロス、勝手に取り次いだ罰として

代わりに事の顛末を説明しなさい。

少し足りない頭でも大丈夫なようわかりやすく、ね。


[イーカロス]

あ、はい……なんかその、ドラゴンヘッド様、

妙な空気になってしまい申し訳ございません。


我々デルソルは

スターストレングス・セントラルレッド両社の指示により

スターストレングス社によるセントラルレッド社への

研究プラント襲撃という形でスターストレングス社の部隊を壊滅させました。


ええと、ここまで宜しいですか?


[ドラゴンヘッド]

A.I.よ、小馬鹿にするのもいい加減にしろ。


[プロフェッサー・ヤン]

イーカロス、君が伝えた内容は正しいが説明としては最低だ。

足りない頭では理解が追いつかないせいで

すっかり怒り心頭じゃないか。バカは導火線が短いんだ。


[イーカロス]

すいません……。これ以上簡略化すると

かえって齟齬が起こりそうで、うまくいきません。


[アルベルト・アイブリンガー]

……では手前めが補足致しましょう。


あの夜の襲撃事件は、弊社と御社の合意の上の狂言です。

もちろん、実行部隊は知りませんでしたがね。


次の事業展開への火種、仮説の証明、新型FAのテスト、

派閥争いの後始末、世論へのアジテーション……


どのような引力が働いたかは想像にお任せします。


[ドラゴンヘッド]

そこはもういい。問題はその先だ。


どうしてデルソルは我が社の関連施設を襲撃した。

そこに関して、どうしても合点がいかない。


[イーカロス]

ええっと、私の手元にある情報ですと……

これは、セントラルレッド社からのオファーですね。


[ドラゴンヘッド]

なに?ウチからだと?


自分で自分を攻撃させるバカがどこにいる。


[プロフェッサー・ヤン]

バカは君だよ。


前回の襲撃ではインパクトが不十分だったんだろう。

世論を、反対派を、敵対派閥を動かすにはね。


ここまで話してもわからないというのなら

いい頭の医者を紹介するよ。なんなら、ロボトミー手術も検討してくれ。


[アルベルト・アイブリンガー]

今回のセントラルレッド社襲撃に関しては

一切弊社は関わっておりません。

全て御社が計画した狂言です。


少なかれ、計画の上では、ですが。


[ドラゴンヘッド]

もしそうだとしたら我が社の意図はなんだと言うのだ!


[プロフェッサー・ヤン]

あ〜もういい……

イーカロス、頭から尾までぎっちり説明してあげてくれ。


一を聞いて十を知れ、とは言わないが

せめて三、いや二ぐらいは察知して欲しいものだ。


[アルベルト・アイブリンガー]

プロフェッサー・ヤン、お言葉ですが

何も、全てを説明しなくても宜しいのでは?


[プロフェッサー・ヤン]

ジェネラルマネージャー、君の言う通りなのだが

これは、科学者のさがと言うやつだろう。


心の底からバカは大嫌いだ。

しかし無関心よりは無理解の方がいくらか愛せる。


[イーカロス]

現在、スターストレングス社もセントラルレッド社も

宇宙事業への展開を画策しています。


と言いますのも、もう軍需におけるFA産業は

需要に対して一通り行き渡り

先細りが確約されているようなものです。


[ドラゴンヘッド]

宇宙事業……。FA技術を転用させることで

より高度なマニピュレーションが可能になった

と言う話は以前に聞いた記憶がある。


[イーカロス]

はい、各地で起こるFAを用いた大小の紛争は

世論や世間を疲弊させるのに十分すぎる働きをしました。


持続性があり平和を連想させる建設的な事業に着手する以外、

両社が生き残ることは困難だと言う見通しです。


[アルベルト・アイブリンガー]

弊社も御社も、上の方々は

武器商人から宇宙開発へ鞍替えしたいようです。

競合他社が出揃う前に地盤を固めておきたい。


が、事業転換を行うその前に、ある程度の在庫整理もしておきたい。


と言うのが本音でしょうね。


[ドラゴンヘッド]

在庫整理だと?


[イーカロス]

ミスターアイブリンガー、補足説明に感謝します。


具体的には、新造された全てのFAが再起不能になるくらい

武器を各地で消費していただきたいと言うことですね。


そうすることで多方面で圧迫していた様々なリソースを

一気に新ビジネスへ向けることができる。


実に理想的な転換と言えます。


[ドラゴンヘッド]

理想的?理想的だと?


クソ企業二つが持ち直すために、そんなことのために、

仲間たちは死んだのか?祖国は火の海になったのか?


A.I. 答えろよ。


なあ、もっと本当は、ちゃんとした理由があるんだろう?


苦しみ、悲しむに値する理由が、あるんだよな?


あると云えよ!


[イーカロス]

それ以上に理由は主にありません。

説明は以上です。ガイダンスモードを終了します。


……やっべ、怒ってます?ね、怒ってますよね?

すいません、全部説明すると言うことでその、

ドラゴンヘッド様のお気持ちを逆なでするような……


ああごめんなさい、悪意があるわけじゃなくて……


[アルベルト・アイブリンガー]

そろそろ本題を切り出して宜しいですかね。


プロフェッサー・ヤン、あなたにお伝えしておきたいことがあります。


もう、二大企業の共喰いは止められません。


お互いが疲弊し、在庫を使いきり、世論が傾くまで

自作自演の団体を間に置いて、いつまでも戦い続けるでしょう。


あなたは静かに並べられていたドミノを

逆方向に倒してしまった。


悪意なく、屈託なく、子供がしでかした悪戯のように。


[プロフェッサー・ヤン]

ふむ。

それが何か問題かね?


[アルベルト・アイブリンガー]

いいえ。あなたにとっては、何も。


手前めも、ドラゴンヘッド様も、自分たちが

所属する会社をこれっぽっちも信じていません。


しかし、自分たちがどれだけ動いたところで

これから起こるドミノ倒しを止められないことも分かっています。


[プロフェッサー・ヤン]

ジェネラルマネージャー、君にしては回りくどい物言いをするね。


私はさっきからバカの相手をして気が立っている。

結論を急いでくれ。最後通牒さいごつうちょうでは、ないようだが。


[アルベルト・アイブリンガー]

ええ。ただの懺悔ですよ。


こうなるまで、自らの意思を後回しにしていた。


結果として、エルムドールを、彼を慕う若者を、

無関係な関係者たちを、数え切れないほど死なせた。


[ドラゴンヘッド]

マネージャー、お前は……


[アルベルト・アイブリンガー]

ようやく決めました。

手前めは反逆します。

スターストレングス社の意思決定に。


たとえ、傷ひとつつけることができなくても

手前め、いいえ、僕は反逆します。


[ドラゴンヘッド]

はは……いいぜ、お前。その反逆に混ぜてくれよ。

傷ひとつ、なんて虚しい事言うな。


全部だ、全部ぶっ壊してやろう。


[アルベルト・アイブリンガー]

ええ、ぜひとも。


そのためにあなたにお願いしたのです。


排水施設の細いルートを通過しながら、

マナ・フロアーを破壊し尽くせる火力を持つ、

隕石の二つ名を与えられた、セントラルレッドの尖兵たるあなたに。


[ドラゴンヘッド]

メテオリス、脚部固定。プラットフォーム用穿孔せんこうを開始。

背部砲身展開。照準よし。穿孔深部20センチに到達。……マウントした。


これでいつでもいけるぜ。


[イーカロス]

ミスターアイブリンガー、どうかおやめください。

あなたの行動は、意図が全く読めません。


今更ここを壊したところで、私のデータはクラウドに残り

現状は何ひとつ変わりません。


それどころか、この狭い空間で高火力の兵器を行使すれば

あなたたち自身を危険に晒すことになります。


どうか、考え直してください。


[アルベルト・アイブリンガー]

銃口を突きつけるような真似をしてすまない。


だが、覚えておいて欲しい。


人間は多分に矛盾を抱えた生き物だ。


そして時に、それを律することができなくなる。


[プロフェッサー・ヤン]

……興味深い。実に面白くなってきた。


そうだ、ジェネラルマネージャー。君の言う通りだ。

人間は矛盾を抱え、重さに苦しみ、それでも飛ぼうとする。


さあ、どうするんだ、飛ぶのか?とどまるのか?

どちらにせよもう、転がった石は止まることはない。


[ドラゴンヘッド]

クソッタレが、もう居ない。


ジェネラル・マネージャーなんて居ないんだよ。


高みの見物決め込みやがって。

降りてこいよ、ヤン!


[アルベルト・アイブリンガー]

僕はアルベルト・アイブリンガー。

実力は三流以下のFA乗りだ。


メテオリス。アトミックバズ、発射。

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