Mission06 バアル・ゼブブ

cast

サイコビリー / マイニングFAエフエー

ジェイ・カプレーティ / オペレーター ♀

スピリットフィード / ファイアスターター ♂

ロメオ / FA1-Rエフエーワンアール 不問


[ジェイ・カプレーティ]

こちら管理室……じゃなかった

掘削くっさく管理センターオペレーターのジェイです。

メインエレベーター、目標深度に到達。

下降を停止します。


アウロラ鉱山は閉鎖されて十年近く経過してるため

施設の老朽化が予想されます。

十分に注意して、行動してください。


[サイコビリー]

なあ、いい加減その喋り方辞めないか。

お互い、晴れて契約解除になったんだ。


もうお前はアルファライト社のオペレーターじゃない。


俺たちは保証もサラリーもない自由気ままなフリーランスだ。


せめて気楽にやろうぜ。


[ジェイ・カプレーティ]

しょうがないじゃない。癖になってるの。


それにしてもまさか廃鉱山でエレベーターガールみたいな

仕事をさせられるとは思わなかったわ。


[サイコビリー]

俺だってこの歳になって型遅れの採掘用FAにもう一度

乗ることになるとは思わなかったさ。


まあいい、探索ついでに小遣い稼ぎだ。

ボギーの修理費の足しにしよう。


[ジェイ・カプレーティ]

ビリー、あなたまさか、窃盗と不法侵入に飽き足らず

盗掘とうくつまでするつもり?


[サイコビリー]

人聞きが悪いな。ちょっと借りてるだけじゃないか。


それに、昔とった杵柄きねづかってやつでね。

こういう採掘仕事は初めてじゃないんだ。


[ジェイ・カプレーティ]

はあ……私を共犯にしないでよね。


それから、あなたが今乗ってるのはマニピュレーターの他には

採掘用ドリルしかついてない民生みんせいFAであることを忘れないで。


何かあれば、即座に撤退すると約束を。


[サイコビリー]

わかってるよ。あくまで、デルソルの動向を探るのが目的だ。


閉山から十年近く経っているのに

あらゆるインフラが機能してるなんて

ここで大当たりです、と自白しているようなもんだがね。


確証が得られたら、すぐに引き上げる。

ちょっとばかりお土産をもらってな。


おっと……なんだ、この揺れは。

地震、いや、上からか?


[ジェイ・カプレーティ]

上の階層でセンサーになにか引っかかったみたい。


監視カメラで確認するわ……

FAのよう、だけど

カメラが白黒で彩度も低くて機種まではわからない。


ねえビリー、悪い予感がするわ。


[サイコビリー]

全く同意見だ。

もうひとつ悪い知らせだ。たった今、天井の一部が抜け落ちた。


ヤッコさん、すぐにおっこちてくるぞ。

一旦退避するが、接触は避けられそうにない。

退避ルートの確認を頼む。


ほーら、きやがったぞ。


[スピリットフィード]

ハエが……ハエどもが……俺に、たかるな!


どこからともなく湧いてきやがって

この国を腐らせやがって!


そこか!ああああッ!どこだッ!

出てこい!姿を見せろッ!


[サイコビリー]

っと危ねえ。

なんだあのマッドな野郎は……


見境なしにぶっ放しやがって。この廃坑ごとぶっ壊す気かよ。


ジェイ、あの暴走FAのスキャニングを頼む。

デルソルの手の者かもしれん。


メインモニター情報を転送する。


[ジェイ・カプレーティ]

この赤いFAは、まさか。


最悪よ、ひどい夢を見てる気分だわ。


FAファイアスターター・スピリットフィード。


[サイコビリー]

スピリットフィード……

聞いたことがあるな。

ああ、コステリのテロリストか。


ここ最近話を聞かなかったが、生きてたのか。


Wow……bullshitブルシット!


ジェイ、気分最悪のところ悪いが追加報告だ。

もう一機FAが降ってきやがった。


今度のはシャンパンみたいな
派手な色してら、ハハッ。


[スプリットフィード]

この……感覚、も久し、い。初めて、ハエを、

潰した、日、を、思い、出す。そう、か、お前が、俺、を。


どう、して、俺た、ちが


苦しまねばならない!

搾取されなければならない!


血を流してお前らを

肥え太らせなければならないッ!


生まれ育った地を奪わ、れ、な、ければ


なら、ない?


[ジェイ・カプレーティ]

滑舌の緩急をコントロールできない

抑揚性言語障害よくようせいげんごしょうがい……神経汚染ね。


ほとんど末期症状だわ。それに、ひどく錯乱してる。

あの頃よりずっと進行してるみたい。


[サイコビリー]

なんだジェイ、ヤツと面識があるのか?


FA乗りにとってオーバーライドシンドロームは

職業病みたいなもんだが

あれほど酷くなるのは、過密勤務の職業軍人くらいだ。


ひょっとすると、俺にとっても遠い知り合いかもな。


[ジェイ・カプレーティ]

かもしれないわね。

でも、だとしたらどうして職業軍人がテロリストなんかに。


[サイコビリー]

誰だって薄皮の上に役を演じてる。


奴がどうしてそうなったか。或いは、そうなれなかったか。

所詮、紙一重の差なんだ。


……金色のFAが動くぞ。


[ロメオ]

ずっと、この日を待っていた。


スピリットフィード、

お前に全てを返しに来た。

戦え。全てを賭けて。


[サイコビリー]

はは、あいつら、おっ始めやがった。

今にも崩れそうなこんな廃鉱山でだ。


金色の方も、なかなかキレてる。


[ジェイ・カプレーティ]

今の声は……そんな、まさか。出来過ぎだわ。


[スピリットフィード]

お前はどこのハエだ?ここのハエか?あそこのハエか?

潰し過ぎてもう分からんな!


これまでに潰して、きたハエが、頭の、頭に、頭の、

中にまで、頭の……


あああッ!燃えろ!


[サイコビリー]

あのバカ、この狭い小部屋で火炎放射器を使いやがった。

やむを得ん、一旦退避する。


エンジンリスタート。


[ロメオ]

キネティックセンサーに反応……?

誰だ……あれは、採掘用FAか。


[スピリットフィード]

ハッ!そこにもハエがいたのか?

意地汚く群れやがって。


まとめて消し炭にしてやろう。


[ジェイ・カプレーティ]

まずい……気付かれたわ。

逃げるわよ、このまま壁沿いに進めば小部屋を抜けられるわ。


進行方向反転、ブースター全開!


[サイコビリー]

了解、アクセルの床が抜けるまで踏み込むぞ。


っておい、動けよこのポンコツ!


シャレになってねえぞ……フリーズしやがった。

よりによって今かよ、冗談きついぜ。


[ジェイ・カプレーティ]

敵FA急接近。

ビリー、耐ショック姿勢をとって!




[ロメオ]

システムを近接戦闘モードに限定。

レーダー有効範囲を縮小。

メインアームリミッター解除。

フォーカスをセミオートに変更。


肩部ハンガーユニット、起動。


[スピリットフィード]

吼えろ、ファイアスターター。


この光は……信号弾か!

目くらましがわりに使うとはなかなか面白い。


ああ、おかげで思い、出したよ。


お前は、あの日、俺が、すり潰し、損なった

ハエの、片割れか。


[ジェイ・カプレーティ]

間違いないわ。あなたはロメオ、

コード・ロメオなのね。


通信を試みます。


……こちら管理室です。

コード・ロメオ、応答してください。


こちらは、ジェイ。

元・アルファライト社所属

オペレーターのジェイ・カプレーティです。


[ロメオ]

アルファライト社のオペレーターだって?

まさか。

それともコード・ホテル、あなたが呼んだのか。


こちらFA1-Rエフエーワンアール

通信に問題ありません。


[ジェイ・カプレーティ]

コード・ロメオ、お願いします。


戦闘に巻き込まれた民生FAを護衛した上で

敵FAファイアスターターを撃破してください。


[ロメオ]

やっと、あの日の……。

お引き受けします。


[サイコビリー]

なんだ、ひょっとして昔の男か?

お前も案外すみに置けないタイプだな。


[ジェイ・カプレーティ]

ビリー、無事だったのね。

速やかにFAを乗り捨てて直ちに退避を。


[サイコビリー]

勝手なこと言うんじゃねえ。

お前あいつに護衛を頼んだんだろう。

だったらしっかりと守ってもらうのが筋ってもんさ。


それに、こんな場所で出会ったのも何かの縁だ。

俺は信じてみるぜ、あの金色を。


[スピリットフィード]

完全に、思い出した。


ハエよ、やっぱり、お前は、

戦争屋、に、なれなかった、のだな。


あの時造作もなく、お前を潰さなくて……よかった。


今度こそ、お前をしっかりと、磨り潰して……うッ。


[ロメオ]

遅い。


左手……


右手……

右足……


最後に左足……。


どうした。避けないのか?


[ジェイ・カプレーティ]

すごい……あの時とは、まるで真逆。


それに、神経汚染のせいで今のスピリットフィードはもう

ろくに攻撃を当てられない。


コード・ロメオ、このまま押し切って!


[ロメオ]

胸部バルカン砲起動。

標的胴体部ひょうてきどうたいぶコアを捕捉。


スピリットフィード、言い残すことはあるか。


[スピリットフィード]

そうか、お前が、俺の、ハエの王、なのか。


ならば、俺は、ここで、全てを、終わらせよう。


NMエヌエム、コネクション・ターミネイト


運動神経系、接続を、解除。


[ジェイ・カプレーティ]

スピリットフィード、NMコネクションを解除。


敗北を認めた……?

いや、違う……再起動リブートだわ!


FAファイアスターター、再起動リブートします!


[スピリットフィード]

NMコネクション・リマッピング

運動神経系を再接続。


感覚神経系、自律神経系を複合接続。


HMエイチエムフィードバックを100パーセントに設定。

ホメオスターシスの成立を確認。


バランサー、スタビライザーを固有受容器こゆうじゅようきと完全同期。

サブジェネレーター全開。


逆算すると……もって5分というところか。

充分だ。


ハエよ、いやハエの王よ。


ここがお前と俺の墓場だ。行くぞ。


[ジェイ・カプレーティ]

神経汚染しんけいおせんと言語障害が消失している。


それに、脚部破損きゃくぶはそんしているのに、

さっきとは動きがまるで別人のよう。

これは一体……。


[サイコビリー]

全神経系接続フル・コネクティングはFA乗りにとって最後の切り札だ。

パイロットの全神経をFAに接続し固定する。


動きも、痛みも、心臓の鼓動も人と機械が完全に同期する。


ゆえに文字通り、FAの手足が自分のそれとなり

操縦技術云々とは次元の違う

人馬一体じんばいったいの運動性を得る。


大破した脚部が脳に送り込む激痛に耐えながら

アイツは壁を蹴り上がり飛び回ってる。


敵ながら大したもんだ。


そして形勢は一気に逆転、

金色が完全に押さえ込まれた。


[ロメオ]

フル・コネクティング……。

そうか。

それがお前の答えなのか、スピリットフィード。


ならば、戦おう。


汚染された神経が焼き切れて

お前の全てが、燃え尽きるまで。


FA1-R 挙動補正きょどうほせい解除。

エクストラブースター作動。


[ジェイ・カプレーティ]

此の期このごに及んで

コード・ロメオの機体がさらに加速……


まずいわ、もう剛性ごうせいがもたない。

このままじゃ小部屋が崩壊する。


ビリー、FAを放棄して徒歩で脱出して!


[サイコビリー]

悪いが、断る。

俺はこいつらの戦闘を最後まで見届けることにした。


おっと、お説教なら後にしてくれ。

生きて帰れたら最後まで聞くからさ。

すまんな、通信をミュートする。


[ジェイ・カプレーティ]

ちょっと!ビリー!応答して!

……どうしてよ。

どうしてみんなそんなに自分の命を軽く扱えるの。


[ロメオ]

それは違う。誰の命も軽くなんかない。


大切なものを天秤にかけたとき

そこに釣り合うには反対側の受け皿に

同じだけの重さを載せなければいけない。


何かを得ようとするならば、

それ以上の重さを秤にかけなくてはいけない。


戦うもの達は、それを経験で理解している。


[ジェイ・カプレーティ]

……あなた達は勝手すぎるわ。


勝手ににらみ合って

勝手に戦って勝手に死んでいく。


何を言っても届かないのならばもう、好きにすればいいわ。


[スピリットフィード]

話をしている余裕があるのか?


俺に終わらせに来たのだろう。

終わらせに来てくれたのだろう?


ハエの王よ、バアル・ゼブブよ。

俺を失望させるな。俺を絶望させてくれ。


俺が戦い続けた意味を与えてくれ。

そして、奪ってくれ!


[ロメオ]

くッ、流石に速いな。それに正確だ。


スピリットフィード、かつてお前は言った。

フォーミュラ・アーラには翼があると。


今日少しだけ、その言葉の本当の意味が分かった気がする。


FA1-R トニトルス、起動。


[スピリットフィード]

腕部の仕込み武器……それがお前の切り札か。


稲妻のように蒼く、美しい閃きだ。


もうじきに長かった悪い夢も終わるのだろう。

お前を燃やし尽くして俺もすぐ燃え果てよう。


ファイアスターター、機体放熱機能きたいほうねつきのう停止。

残弾放出。


[ジェイ・カプレーティ]

…………FA1、避けて!


[ロメオ]

トニトルス、走れッ!


[サイコビリー]

かたや爆炎、かたや雷鳴か。

さて、どっちが勝つか。


負けんなよ。どっちも。




[スピリットフィード]

……俺は自分を正しいと思っていた。


故郷に、母国に、民族にたかるハエを

追い払い、人々を救うことを正義だと思っていた。


西のハエを潰して、東のハエを潰して

体制のハエを潰して、反体制のハエを潰して

世に人の有る限り、ハエは生まれ続けることに気づいた。


[ロメオ]

それで。


[スピリットフィード]

それもまた人のごうと、分かったフリをした。


ハエから守ったチョウのさなぎから

ハエがかえることも世の常である、と。


ハエを、潰し続けたその先に立場や都合などで、

変わらない明確な答え、があると、期待した。


そして、願う、ように、なった。


潰し、続けた、ハエたち、の親玉、が

復讐にやってきて、答えの、無い日々を

奪う、ように、終わらせて、くれる、ことを。


[ロメオ]

……それで。


[スピリットフィード]

ハエの王よ、教えて、くれ。


お前は、今日、何を成し、に来た。


[ロメオ]

……胸部バルカン砲起動。


標的コックピットを捕捉。


[ジェイ・カプレーティ]

コード・ロメオ、もう決着はついてます。

敵FAファイアスターターは再起不能。


殺害する必要は……


[サイコビリー]

ジェイ、止めるな。


フル・コネクティングは二度と解除出来ない。

スピリットフィードは知っていた。


終わらせてやるんだ。


[ロメオ]

お前はもう、それを知る必要はない。


眠れ、スピリットフィード。


[スピリットフィード]

ハハッ、やっぱりお前は、ハエの、王だっ、た。


ありがとう。


[ジェイ・カプレーティ]

ファイアスターターのコックピット大破。

スピリットフィード、バイタルサイン消失。


コード・ロメオ、あなたの……勝利です。



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