第768話

「第一部隊!王宮内に取り残された者が居ないかの確認を急げ!第二部隊は怪我人の治療を!他の者達は至急部隊を組んで王宮前に集合しろ!」


「「「「「「「ハッ!!」」」」」」」


 行く手を阻んできたモンスターを討伐しながら大通りをひた走って何とか王宮まで辿り着いた私達が目にした光景は、慌ただしく動き回っている警備兵と着ている服が乱れたまま息も絶え絶えになって何かに怯えている様子の人々だった。


「コレは……やっぱりここにもモンスターが現れたんでしょうか……」


「あぁ、恐らくだけど王宮の中にもモンスターが出現したんだろうね。」


「……いや、ここで起きている問題はそれ以上にマズいかもしれんぞ……」


「そうね……モンスターが出現したって程度じゃ収まらないぐらいの問題がここでは起きているわ。」


「……レミ様、ユキ様、それはどういう事ですの?」


 王宮を睨み付ける様にして見上げている2人にリリアが声を掛けたその時、私達の目の前へ警備兵に支持を飛ばしていたオタイン・ルークが駆け寄って来た。


「皆様!?一体ここで何をしていらっしゃるのですか?!」


「お久しぶりですルークさん。実は色々と事情があってこちらまで来たんですが……その前に教えて下さいませんか?ここで何が起きているのかを。」


「そ、それがですね……」


「ロイドちゃん!」


「っ、母さん!?それと父さんに……!」


「お父様とお母様ではございませんか!」


「がっはっはっは!いやはや、コイツは驚いたな!まさかここで会えるとは思ってもみなかったからな!」


「えぇ!リリア、無事で良かったですわ!それに皆様もお会いする事が出来て嬉しい限りです!本来ならば楽しく談笑をしたい所なのですけども……ごめんなさい。今はそんな状況ではありませんでしたわね。」


「そ、そうですよ!とりあえずお聞かせ願えますか。今、何が起きているのかを。」


「かしこまりました。順を追って説明をすると話が長くなりますので要点だけを説明させて頂きます。本日、こちらでは王宮内にある会場を使用してのパーティーが開催されておりました。」


「……そう言えばそんな話を以前聞いたね。開催日は今日だったのか。」


「えぇ、でもロイドちゃん達を邪魔したくないから伝えはしなかったの。」


「招待をされた私達が顔を出せば問題は無かったからな。それでパーティーの最後に王宮の中庭で花火を打ち上げる事になったのだが……」


「そうしたら空が紅く染まりやがってな!かと思ったら、空にバカでかい穴が開いて何処からともなくモンスター共がわんさかと現れやがった!まぁ、弱すぎて相手にはならなかったがな!ただ異変はそれだけじゃ終わらなくてなぁ……」


「警備隊の方々に護衛されながらパーティー会場を出た直後、王宮内が大きく変化をしていたのよ。」


「へ、変化ですか?それは一体……」


「……言葉通りの意味です。より具体的にお伝えするならば、王宮内がダンジョンと似た構造になってしまったという事です。」


「ダ、ダンジョンだって!?そんな事があり得るのかい?!」


「驚くのも無理はない。だが、コレは紛れもない事実だ。」


「通路、及び内部構造は大きく変化を遂げてしまいました。私達は何とか招待された皆様の事を外までお連れする事が出来ましたが……」


「……つまり、王宮の中には取り残された人達が居るって事ですか?」


「はい。現在確認中ではありますが、恐らくは逃げ遅れた者達がまだ居るはずです。ですので私達はこれから部隊を編成し救助活動にあたる所でした。そんな時……」


「私達が姿を現した……という事だね。」


「えぇ、それではお聞かせ下さいますか。皆様がこちらに来た理由を。」


「……分かった。実は、私達は九条さんを探しにここまで来たんだ。」


「……九条様を、ですか?そう言えば姿をお見掛けしませんが……」


「皆さん、九条さんに何かあったのですか?」


「あっ、姫様!ここは危険ですので、すぐにこの場から避難をと」


「現状、何処に逃げたとしても危険な事に変わりは無いと思います。それよりも九条さんに何があったのか、私にもお聞かせ願えますか。」


 煌びやかなドレスに身を包んだ可憐なお姫様、ミア・リエンダルに真剣な眼差しを向けられた私は彼女の瞳を見つめながら小さく頷くと九条さんが異変が起こったのと同時に姿を消してしまった事と王宮に向かっていたと言う情報を伝えるのだった。


「……つまり、九条様がこちらにいらっしゃったのですか?」


「あぁ、どうかな?見掛けていかないかな?」


「……すまない、私達は見ていないな。」


「悪い、俺達も見てねぇな。」


「そんな……それじゃあご主人様は何処に……」


「……もしかしたら王宮内に居るのかもしれませんわね。」


「……王宮内に?」


「えぇ、確証はありませんがその可能性は充分にあるかと思います。」


「……ルークさん、1つ頼みを聞いて欲しいんだが……」


「……もしや、王宮内へ九条様を探しに行くおつもりですか?」


「あぁ、だからその許可を求めたい。」


「……正直に言うと許可しかねます。王宮内部は先程も説明した通り、ダンジョンと化して構造が大きく変化しています。凶暴なモンスターも多数出現していますので、その中から彼を探し出すのは困難と言えるでしょう。」


「それでも!……それでも、お願いだ……!」


「……ロイド……」


「…………………」


「……ルーク、私からもお願いします。」


「っ」


「……姫様。」


「九条さんには今まで何度もお世話になってきました。そんな彼の身に危機が迫っていると言うのに、見捨てる様な真似をする事は出来ません。」


「わ、私からもお願いします!どうか、ご主人様を助けに行かせて下さい!!」


「……お願いします。」


「………皆様………」


「……申し訳ない。娘の頼みを聞いてはくれないだろうか。」


「……エリオ様、よろしいのですか?王宮の中は今……」


「命の危機がある事は理解しています。そんな場所に大切な娘を向かわせたくはないという思いもあります。ですが……私は娘のこの固い意志を尊重してあげたい。」


「……うふふ、必ず無事で帰ってきて来るって約束してくれるわよね。」


「……あぁ、勿論。」


「がっはっは!って事はリリアも行くんだろ?」


「えぇ!ロイド様の行く所、何処へだろうとお供を致しますわ!」


「わ、私も一緒に行きます!お父さんとお母さんには心配掛けちゃうかもですけど、皆さんの悲しむ顔は見たくありませんから!!」


 ……こんなにも心強い事は無い……そう思いながら頭を上げてルークさんと視線を交わすと彼はしばし口を閉ざして瞳を閉じると……


「……分かりました。王宮内に入る事を許可します。」


「っ、感謝する!」


「いえ……皆様、どうかご無事でお戻り下さい。九条様と共に。」


「あぁ、了解した!」


「……さて、話は決まったみたいですし私も準備をしてきますね。」


「……はい?姫様、準備とは一体何を仰って……?お、お待ち下さい!」


「……どうやら、心強い同行者が一人増えるかもしれないね……」


「そ、そうみたいですね……」


 戸惑いを覚えながらも自身の装備を再確認していった私達は、九条さんを探す為にダンジョンと化した王宮の内部へと足を踏み入れていくのだった。

































 ………ここは……………何処だ……………俺は………………おれ………は…………

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