第681話
「あっ、九条さん!こんにちはです!」
「あぁ、オレットさん。こんにちは。こんな所で会うなんて奇遇だな。」
ダンジョン攻略を翌日に控えた昼前頃、本屋に寄った帰りにブラブラと散歩をしていたら前方からオレットさんが俺を見つけて小走りで駆け寄って来てくれた。
「えぇ、そうですね。九条さんは何をしていらっしゃったんですか?皆さんのお姿が見えませんが、お1人でお買い物ですか?」
「うん、まぁそんな所だな。そう言うオレットさんは何をしてたんだ?最近は記事の作成に追われて外に出る暇も無いって2人から聞いてたけど?」
「はい……ここ数日は本当に忙しくって……さっきまでお姉ちゃんに監視されながらお仕事をしてたんですけど、ずっと座って作業をしてたら全身が固まってきちゃったので息抜きついでにお散歩をしてた所なんです。」
「ふーん、大変そうだな。」
「えぇまぁ……でも、私的には苦じゃ無いから全然良いんですけどね!ただその……学生の頃にやっていた部活動とは違って気を付けなきゃいけない事が多いのでそこがちょっと……表現1つ取っても考える事が多いので熱が出ちゃいそうですよ。」
「ははっ、色々と苦労してるんだな。分かった、ここで会ったのも何かの縁だし何か食べるもんか飲み物でも買ってあげるよ。」
「えっ!良いんですか!?」
「あぁ、オレットさんが迷惑じゃ無ければの話だけどな。」
「迷惑だなんてそんな!九条さんのご厚意、有難く受け取らせて頂きます!」
「おう、了解。それじゃあ適当にそこら辺にある店に……」
「あーうっせぇな!いい加減にしつけぇんだよ!!」
「わっ!び、びっくりしたぁ……あの人達、何を言い争っているんでしょうか?」
「さぁな……いや、もしかしたらあいつ等が例の……」
少し歩いた先にある店の中から出て来た2人組の男達と1人の少女、俺達も含めた周囲の人達は距離を取りながら口論を繰り広げている3人を見つめていた。
「お願いです!お金を返して下さい!」
「はぁ?人聞きの悪い事を言ってんじゃねぇ!ありゃ授業料だっつってんだろ!」
「そんな!授業料って貴方達は何もしていないじゃないですか!私にだけクエストをやらせてその報酬を!」
「やかましい!オラッ、ちょっとこっちに来い!」
「い、いや!離して!」
「く、九条さん!」
「分かってる!オレットさん、カメラは持ってるか?」
「は、はい!常に持ち歩いてます!けど、それが……?」
「今から決定的とも言える瞬間を用意するから、建物の陰に待機して撮影してくれ!頼んだぞ、オレットさん!」
「あっ、九条さん!」
オレットさんをその場に残して急ぎ足で少女が引っ張り込まれて行った裏路地へと足を踏み入れた俺は、言い争う声が聞こえてくる方に向かって行った。
「居たな……オレットさんは……よしっ、ちゃんとついて来てるみたいだな。」
「は、離して下さい!こんな事して良いと思ってるんですか!?」
「ハッ、言いも悪いもテメェ次第だよ。ここで何も言わずに黙って消えるってんなら許してやるけどな、あんまりしつこい様だと痛い目を見る事になるぞ?」
「あぁ、それともそっちの方がお望みってか?それなら……」
「や、やめて……!」
「おっとっと、そろそろマズイみたいだな……ったく、こんな時に怪我なんてしてる場合じゃねぇんだけどなぁ……仕方ない、いっちょ気合を入れますか……!」
壁際に追い詰められていく少女と調子に乗り出している男達の周囲をチラッと確認したその直後、俺は建物の陰からゆっくりと出て行った。
「へへっ、嫌がった所で助けなんか来たりしねぇってぇ!?」
「はいはいはーい!ダメですよーいい歳した大人が若い子を困らせたりしたらー」
「くっ!離しやがれ!」
「うおっと、急に暴れたりしたら危ないじゃないですかぁ。ねぇ?」
「え、え?」
男達との間に割って入って来た見ず知らずのおっさ……お兄さんに声を掛けられて少女が戸惑いの表情を浮かべていると、腕を軽く捻り上げられていない方の男が俺をジロッとした目つきで睨みつけてきた。
「テメェ……何もんだ?」
「アンタ達に答える必要はねぇだろ?それよりも、寄ってたかって女の子に詰め寄るとか恥ずかしくないのか?」
「アァ?んだと……」
「あぁ、こりゃ失敬。恥ずかしさなんて感じる訳ないか。アンタ達、最近ここら辺で噂になってる小悪党共だもんな。冒険者になったばかりの子に指導をしてあげるって近づいては小金を騙し取ってるって感じのさ。」
「チッ!この野郎!」
「おい、あんま調子に乗ってんじゃねぇぞおっさん……ぶっ殺されてぇのか?あ?」
「おいおい、正体を暴かれたら今度は脅迫かよ?いやはや、何とも情けないなぁ……っと、君はもう行きな。ここは危ないからさ。」
「えっ、で、でも……」
「大丈夫大丈夫、ここは俺が何とかするからさ。ほら、行った行った!そんで通りの方から助けでも呼んで来てくれ。頼んだよ。」
「……は、はい!その、失礼します!」
「あっ、待てやゴラァ!」
「おーっと失礼。アンタ達を行かせる訳にはいかねぇなぁ。」
「ぐっ、この野郎!」
「クソジジシイがふざけやがって!!」
「おいおい、服が伸びるから手を離してくれると助かるんだが?」
「うるせぇ!誰だか知らねぇが舐めやがって!オラァッ!」
「っ!!」
大きく振りかぶられた男の拳が頬に当たったその瞬間、首を捻って衝撃をギリギリまで抑える事に成功した俺は、そのままの勢いで近くにあるごみ置き場らしき場所に勢いよく突っ込んでいった!
「へっ!無様だなぁおっさん!」
「調子に乗るからそういう目に遭うんだよ!」
よーしよしよし、やっぱりこういう連中にはこの手に限るぜぇ……くっくっく……さぁオレットさん、傷害の現場をバッチリさつえ……いっ!?
「うおっ!何だお前ぎゃあ!」
「ぶへぇっ!」
「……貴様等、コイツに何をしている……?」
「……貴方達……一体どういうつもりで九条さんの事を殴ったんですか……?」
「ク、クリフに……エルア?お前ら、どうしてここに……」
男達の腕を思いっきり捻り上げて壁と地面に押し付けている無表情の2人が視界に入ってきた事に驚いていると、大通りの方からコツコツという足音が聞こえて……
「ふふっ、2人だけじゃないよ。」
「私達も居る。」
「……お、おうふ……」
ヤ、ヤバい……まさかロイドとソフィまでこの場にやって来るなんて……!つーかどうしてこんな状況の時に見つかっちまうんだよ俺はぁ!!
「うぐっ……は、離しやがれ……!」
「黙れ、無駄口を叩くと貴様の魂ごと消し炭にするぞ。」
「それとも……このまま腕をへし折られたいですか?」
「いで!いでででで!わ、分かった!黙る、黙るから離してくれぇ!」
「あ、謝る!さっきの事は謝るからも、もう……!」
泣き叫んでる男達を無視するエルアとクリフにちょっとした恐怖を感じていると、今度はロイドとソフィはゆっくりと近寄って行き……
「ふふっ、謝るという事は反省をしているという事かな?」
「そ、そうだ!反省する!反省するからぁ……!」
「ふむ、それなら許してあげようかな?」
「ほ、本当か!」
「うん。ただし、これだけは覚えておいてくれるかな?」
「な、何をだ!何を覚えておけばいい!」
「……まず1つ目、私はウィスリム家の1人娘だという事。」
「ウィ、ウィスリム!?それってあの……」
「この街を仕切ってる貴族の……!」
「うん、知っているみたいで何よりだよ。それでは2つ目。もし貴方達が今回の事を逆恨みして私達に危害を加える様な事があれば……」
「「っ!?」」
「……この世から存在を抹消する……何処に隠れていようと……必ず……」
無表情のロイドに瞳を覗き込まれながらそんな事を囁かれた男達は、一瞬で顔面を青白くさせると全身をガタガタと震わせ始めて……
「「ひ、ひ、ひぃいいいいいいいい!!!!!」」
情けない叫び声を上げながらエルアとクリフを振り払うと、そのまま大通りの方へ全速力で逃げ出して行ってしまった。
「……怖っ。」
「九条さん!大丈夫ですか!?」
「うおっと!?ちょっ、顔が近いってエルア!」
「そんな事はどうでも良いんです!それよりもさっき殴られた所は!」
「あぁ、平気だって。何とか威力は殺したからさ……それよりもお前達、何でここに居るんだよ?ってかオレットさんは?」
「はーい!私はここですよー!って九条さん!ああいう事をするんだったら、事前に教えといて下さいよ!本当にビックリしたんですからね!」
「悪い悪い。それよりもオレットさん、決定的な瞬間は撮れたか?」
「はい。それはもうバッチリと撮影しましたよ。現像すれば九条さんが殴られている瞬間がきちんと撮れているはずです。」
「そうか……なら、後は警備隊の人達に任せるとするか。」
「えっ、写真を渡しちゃうんですか?」
「勿論。俺は許した訳じゃないし、あいつ等が騙し取った金はきちんと持ち主に返す必要があるだろ?」
「それはまぁ、そうですけど……」
「よしっ、そうと決まればさっさとここをおさらばしよ」
「九条さん、1人で何を納得しているのかな?」
「……また、無茶をした。」
「………あー……いや……これについては致し方なかったと言うか……」
「ふんっ、貴様が何を考えていたのかは大体察してやるが……」
「僕達の知らない所で危ない事をしようとした件、きっちり説明してもらいます。」
「おー……あー……えっと……あっ、オレットさん!そう言えば飯か飲み物を」
「おーっと!これはいけない!休憩時間がそろそろ終わってしまいます!九条さん!私はこれにて失礼します!奢って貰うのはまた今度という事で!それではまたっ!」
「オ、オレットさん!オレットさああああん!」
ビシッと敬礼をした直後に物凄い勢いで走り去ってしまったオレットさんの背中に手を伸ばした次の瞬間、肩にポンッと優しく手を置かれて……
「さぁ、行こうか九条さん。家でマホが帰りを待っているよ。」
「うぅ……ううぅ……!どうして……どうしてぇ……!」
何時もと変わらない口調でロイドに声を掛けられた俺は、ちょっとした絶望を感じながら裏路地を後にするのだった……その途中で少女と警備隊の方達と話をする事になったんだが……結局の所、俺に訪れる結末が変わる事は無かったとさ……!
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