第655話

 朝から陽が暮れるまで1人で街をブラブラとしながら色々と楽しんだ俺は、帰って来た宿屋で合流した皆と今日をどんな風に過ごしたのかを報告し合っていた。


「ふーん、そっちはそっちで慌ただしい1日だったんだな。」


「うん、ジーナがまたスノードで滑りたいと言い始めてね。午前中はそれで終わってお昼ご飯を食べた後は温泉と食べ物とお土産屋を見て回ったよ。」


「なるほど、充実していた様で何よりだ。」


「えへへ、本当に楽しかったですよ!おじさんも一緒に来ればよかったのに。」


「はいはい、それはまたの機会にな。ってかお土産か……明日から本格的に動き出すとして、ユキが神様としての役目を果たすのはどれぐらい先になりそうなんだ?」


「そうねぇ……今は暖かくなってきて他の冒険者達もぼちぼち働き始めているみたいなんだけど、やっぱりそれなりに時間は必要だと思うわ。アンタ達には付き合わせて悪いんだけどね。」


「ふふっ、謝らなくても良いよユキ。この街で生活する人々の為にする事なんだから私達だって喜んで協力するよ。」


「うん、気にしないで。」


「……そう言って貰えると助かるわ。」


「はっはっは、大丈夫じゃよ。わしも力を貸すんじゃからのう。お主達の頑張り次第では大幅に時間を短縮出来るはずじゃ!」


「えへへ、それならその期待に応えるしかありませんね!」


「あぁ、この街に滞在している分だけジーナの奴に素材集めをしてくれって頼まれる可能性もあるからなぁ……」


「九条さん、もう頼まれてる。」


「……えっ、マジで?」


「うむ、実は言っておらんかったが土産物を買った後に斡旋所によってのう。そこに貼り出されておったクエストを見ながら集めて欲しいという素材のリストを作成しておったぞ。恐らく明日の朝にでも渡されるんじゃないかのう。」


「……おうっふ……」


「あ、あはは……でもでも!どうせクエストをやる予定なんですから、そのついでとして考えれば良いじゃないですか!」


「そうだよ九条さん。可愛い女の子の頼みは喜んで引き受けてあげないと。」


「うん、断る理由は無い。」


「……だ、そうよ。」


「はぁ……仕方ねぇなぁ……」


 俺の知らない所で勝手に面倒事が追加されていた事にため息を零しながら何となく時計に目を向けると、夜も更けてきたと言えるぐらいの時間になってきていた。


「あっ、もうこんな時間なんですねぇ。明日は皆さんをお見送りしないといけませんから、そろそろ寝るとしましょうか。」


「うん、寝坊してしまうのだけは避けないといけないからね。」


 ロイドのその言葉に小さく頷き合った俺達は、少し早いがそれぞれの寝室に戻って行った……それから数十分後、寝間着を脱いで外着になった俺は暗いリビングを通り抜けてそのまま廊下へ出るとそこには……


「あっ、お待たせしてしまいましたか?」


「いえ、私も今さっき出て来た所です。」


「そうですか……では、行きましょうか。」


「えぇ、そうですね。」


 静かに微笑みながら扉の前で親父さんと合流した俺は、露天風呂で誘われた飲みの約束を果たす為に夜のノルウィンドへと出掛けて行くのだった。

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